第14話


「つまり、君は瞬の『執事候補』という事になるのか?」

「執事……という形でここに来たワケではありません。私は……私自身が家からいなくなったあなた方の動向が気になって父に直談判した結果。ここにいるんです」


 俺は、そんな事を考えた事なんてなかった。


 でも、千鶴さんは俺たちがいなくなった後も気にかけていてくれていた様だ。ただ、まさかこんな近くにいたとは……。


「ふーん。それで、君は瞬の行動を報告していたってワケ?」

「報告……と言うほどの事はしていませんでした。ただ、何かあれば言うように……と」


「しかし、宗玄さんは見えない人のはず」

「はい。ですから、私自身で何とか対処しようと……」


「その結果、小さい頃からしていた『体術』がこんな形で役に立っている……というワケか」

「私もまさかだと思いました」


 どうやら、俺の行動を見ていく内に色々な『霊』に関わっている事を知り、その中で『悪霊』から逃げている俺の役に立ちたかった時に、本当に『偶然』通用したようだ。


「じゃあ、君は『力持ち』というワケだ」


 刹那としては、実苑さんの様に『悪霊を祓う力を持っている』という意味で言ったのだろうが……。


「その言い方だと『筋力がある』様に聞こえるな」

「意味としては合っているとは思うがな」


 ただ女性に対して『力持ち』というのは……どうなのだろうか。


「え? だってそのまんまじゃん」


 そこら辺が日本語の難しいところ……という事なのだろう。たった一つの『単語』で、意味が混同してしまうのだから。


「だっ、大丈夫ですよ。ちゃんと分かっています」

「ほらー、本人がそう言っているんだからいいじゃん」


 刹那はそう言って口を尖らせていたが、俺たちも別に言い争いをしたいわけではない。それに「まぁ、本人が言っているのなら」何も問題はない。


「で、今回はその体術などを使って『悪霊』と対峙した……というワケか」

「はい」


「あっ……ねぇ、一つ聞きたいんだけどさ」


 何かを思い出した刹那は、千鶴さんの方を向いた。


「なっ、何でしょうか」

「君はどうしてここに来たのかな?」


「それは……今、話したことを話そうと思いまして。後、何か……嫌な予感がしまして」

「……そっか」


 その千鶴さんの予感はどうやら当たっていたようだ。


「で、刹那の聞きたいことはそれだけか?」

「んー?」


「お前は『その程度』のことをわざわざ聞かないだろ」

「えー、そんな事ないよ?」


「まぁ、その場の空気が重かったら場を和ませるために聞く……くらいはするだろうな」

「だから、そんなんじゃないって」


 改めて指摘されて気恥ずかしいのか、刹那は少し焦っているように見えた。


「じゃあ、違うのか?」

「うっ」


 しかし、本当のところは俺の言った通りだったらしく、口をつぐんだ。


「うぅ。ただ単純に俺は『その悪霊』がなんだったのかな……と思ってさ」


「?」

「どういう事だ?」


「実は、二人がここに来る前に刹那から『ある霊の話』を聞いていたんだよ。ね? 瞬」

「ああ、そうだな」


 そういえば、あの『霊』は「きっかけを探してきます」と行ったきり帰って来ていない。


「それで、少ししたらこの騒ぎだったから。もしかしたら、何か関係があるんじゃないかなって思ってさ。しかも、君が持っているのが『天秤』っていうのも気になるし」


 確かに、霊の話を聞いてからここまでの『流れ』は出来過ぎているように思える。


「で、ちょっと考えたんだけどさ。実は、あの俺たちに話をしていた『霊』は最初から『悪霊』だったんじゃないかって思ってね」

「じゃあ、どうして俺を狙ったんだ?」


「それは、龍紀が『見えない人間』でカードを集めている瞬の友達だからでしょ。カードを集めている人間に良い印象を持っているとは限らないからね」

「……なるほど」


 実際、カードを欲しているのは『母方の実家の人間』なのだが、カードたちにとって、そんな事は関係ないのだろう。


 だから、俺ではなく友人である龍紀を狙った……その理屈は分かる。


「しかも、俺は『悪霊』を見た事がないから、そもそも『悪霊』がどんな感じなのか分からない」


 言われてみれば、俺はハッキリ見えていたが、刹那は薄らぼんやりとしか見えていなかった。俺は、それを『カード関係』だと思っていたが……。


「カード関係かつ、悪霊だったから……っていう事で説明出来ちゃうよね?」

「…………」


 今更ながら、おかしいとは思っていた。カード関係で刹那は何度かその『カードのモチーフ』と対面している。


 それなのに『今回に限って』というのは、不思議な話だ。


「だから、改めて聞こうと思ってさ。その君が退治した『悪霊』について」

「……とりあえず、性別は女性でした。後、コレはその彼女が持ち出してきた物です」


 千鶴さんは、特に動揺することなく、淡々と言い、俺の目の前にある『天秤』を指した。

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