第5話


「にっ、兄さん?」

「うん? 何?」


 俺は、思わず兄さんに声をかけた。今の兄さんの表情が……あまりにも怖かったから。


「いや……兄さんの会いたい人って」

「もちろん、爺さんだよ」


「どっ、どうしてここにいるって思うのですか?」

「えっ、だってこうした明らかにボディガードっていう風貌の人が今襲ってきたって事はさ、本邸の方の人たちがこっちに来ているって考えられない?」


「そっ、それは……でも、周囲を見回りしていて偶然……という可能性も……」

「それならここじゃなくて上の森の方を見るでしょ」


 兄さんにそう言われ、俺は無言になった。兄さんの言っている事は、十分筋が通っているからだ。


「しかも、この人は本邸の方から来た。もしかすると、僕たちがここにいる事はもう伝わってしまっているかも知れない」

「……その可能性は大ですね」


 ただ、そうなればここで立ち止まっているのは危険だ。いつ、この男性の様に追ってくるか分からない。


「多分、本邸の方から人が来る可能性が高いから、このままその『空』っていう女の子がいるであろう場所を目指そう」

「わっ、分かった」


 そうして、俺たちは本邸がある場所とは逆の方向に向かって走り出した。


 ちなみに、兄さんが気絶させた男性は、とても連れて行ける状態ではなかったため、そのままその場に放置していった。


■  ■  ■  ■  ■


『おい、応答しろ』

「……すみません、電波が悪く通信出来ませんでした。こちら異常ありません」

『……そうか、ごくろう』


 男性は、床に座り、壁に背を預ける形で座っていた。いや、正確には『座らされていた』のだ。


「はぁ」


 そう、男性はついさっきまで気絶しているフリをしていた。


 どうしてそんな事をしたのか。それは、次に二人がどんな行動を起こすのか……それを知るためだ。


 ただ、攻撃を受けて分かった事がある。


 それは、今。連絡した相手が『ぞく』と言った少年と青年は、そんなに悪い相手には思えない……という事だ。


 決して、それは脅されている……とかひいきしている……とかではない。そもそも、男性がその少年たちの姿を間近で見たのは初めてだ。


 むしろ、脅してきたのは今。こんな状況を作っているさっき連絡した相手の方である。


 男性としては、出来る限り早くこんな事は終わらせたいと思っていた。


 しかも、今回の話がうまくいったところで、男性たちに何かメリットがあるのか……と言われても、実際のところは何もない。特をするのは本家の人間だ。


 それは、今に始まった事ではない。


 男性はもう今更……と諦めていたし、そんなモノと思っていたが、少年たちの会話を聞いていて、奥の部屋にいる『星川』という少女に会いに来るために、わざわざこんなところに来た……という事を聞くと、応援したい気持ちになった。


 だから……というわけではないが、男性は本気を出さずにワザと攻撃を受け倒れた。


 もちろん、青年の攻撃は速く、それ相応に痛かったのだが、男性の意識はすぐに戻った。


 しかし、コレだけでどれだけ時間が稼げるか分からない。


 それでも、男性はあの少年と青年に賭けてみようと思った。少なくとも、自分たちの利益の事しか考えていない本家の人間よりは、信用してもいい……男性はそう思ったのだった。

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