第6話


「ヒック……グス」

「大丈夫。大丈夫だから」


 暗い部屋。そこには数人の子供たちが小さい身を寄せ合っていた。


「お兄ちゃん、お腹空いたよ」

「ごめんな、もう少し待ってな」


 その中でも少し体の大きな少年が一番のお兄さんなのだろう。


「大丈夫だよね? みんな大丈夫だよね?」


 一人の少女は心配そうにその少年に尋ねた。


「……ああ、大丈夫。大丈夫だ」


 その言葉は少女を勇気づける為に言った……はずなのだが、それと同時に少年自身にも言い聞かせていた。


「あの人たち……誰なの?」

「…………」


 いつも通り、普通に朝食を食べていただけのはずだ。


 それなのに、あの大人たちは突然現れた。ここにいる先生たちが何やら話し合いを始めた。


 しかし、その話し声が次第に大きくなり、すぐにその場を離れるように言われた少年たちは、訳も分からないままこの部屋に逃げ込んだ。


 それからどれだけの時間が経ったのだろうか……。


 先生たちから詳しい話も聞いていない。そもそもあの人たちは一体誰なのだろうか。色々な疑問が浮かんでくる。


 いや、それを考えられるくらい長い時間ここにいる様に感じる。


 少年以外の子供たちはただでさえ落ち着きのない年頃だ。あまり長い時間ここに押しとどめることは出来そうにない。


 ――さて、どうしたものか。


「おっ、開いた」


 そう少年が思っていた瞬間。突然、部屋の窓が大きく開かれた。


「!」


 あまりに突然の出来事で、少年や他の子供たちが固まっていると、何人か部屋へとバタバタ入ってきた。


「……」


 しかし、その姿は朝見た人たちとは違い、真っ黒い姿をしていない。むしろ、少年たちとよく似た服装をしている。


 その人たちは『何か』を探しているのか「ここで合っているの?」とか「多分、この下だと思います」とか話をしている。


「? 申し訳ございません。突然入ってきてしまい……」


 年は彼らの方が上だろう……というのは分かる。


 しかし、声をかけてきた一緒にいる一人はその少年たちとは全く違い、年齢も高く服装も雰囲気も全然違う。


「えっ、あっ……」

「ん? もしかして、ここにいるのは子供だけか?」


 その男性の謝罪の言葉に少年が返事をする事も出来ず、固まっていると、今度は別の少年が尋ねた。


「うっ、うん。先生たちは真っ黒い人たちに連れて行かれちゃったの」

「……そうか」


 少年は、今にも泣きそうな少女の頭を優しく撫でた。その表情は、優しさも感じられたが、それ以上に『怒り』の表情が見て取れた。


「先生たちがどこにいるか分かるか?」

「……ううん」


 少女は、少年の対応に泣きながらも首を左右に振った。


「あっ、あんたたちは一体?」


 ここにきてようやく少年は我に返った。


「うーん? 俺たちはちょっと『探し物』をしに来たんだよ。出来れば、その真っ黒い人たちにバレない様に探したいんだよ」

「はっ、はぁ……?」


 そう言っている少年は「うーん」と腕を組んで悩んでいる。


 だが、全然意味が分からない。分かるのは、彼らが『何かを探している』という事だけだ。


「そうだ、君。えーっと、なんか『絵』というか『円』と『文字』が書かれたモノを知らない?」

「え?」


 いきなりそんな聞かれても……と思ったが、すぐに少年は思い至った。


 そういえば、先生から一度だけ偶然それが書かれている部屋にかくれんぼ中に入ってしまった事があったのだ。

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