第17話
「さて……と、確かこの辺りだと思うのですが」
車から降りた刹那は辺りをグルッと見渡した。しかし、辺りには誰もいない。
「うーん?」
「どうかされましたか」
「あっ、いえね。瞬たちがいないのは、何となく分かるんですよ。さっき宗玄さんから聞きましたから」
「はい」
そう、刹那は車内で『実は星川空は、目的地にしていた孤児院にはいない』という事を宗玄さんから聞かされていた。
しかも、その別の場所に向かう為に、先に行動を開始するという連絡を想さんから受けたらしい。
だから、ここに瞬がいないのはむしろ『当然』である。ただ、ここに龍紀と千鶴がいないというのが、分からない。
確か、龍紀が乗ってくるはずのバスはバス停に着いているはずだし、そこから歩いて来たところで、刹那たちよりは早く着いているはずなのだ。
「でも、龍紀たちがいないのは……なぜ?」
「…………」
刹那と宗玄さんは警察にも一度寄っている。しかも、その前に色々なやり取りで時間も食っていたはずだ。
そんな刹那たちと比べて遅れる……なんて事はあるはず……。
「!!」
刹那がそう考え込んでいる時、突然茂みが揺れた。
当然、刹那は驚いたが、なぜか宗玄さんは戦闘体勢を取ることもなく、普通にしている。
「??」
宗玄さんのその態度を不思議に思っていた刹那だったが、その『理由』はすぐに分かった。
「……って、ええ!?」
刹那は茂みから出てきた人物の『姿』に驚いた。
「はぁはぁ……なんとか着きました」
「はぁ、良かった」
茂みから出てきた二人は、なぜか右側の頬に大きな青あざをつくっている龍紀と、両腕が擦り傷だらけの千鶴だったのだ。
「なっ、ええ? どういう事? というかどういう状況になれば、そんな青あざつくれるのさ」
ただ、いきなり現れた友人が大きな青あざをつくっていたら、誰だって驚くだろうし、心配もするだろう。
「コレか? 説明すると、長くなるから……簡単に言うと、自分の拳を自分で受けた」
「……はい?」
――それは一体、どういう事なのだろうか。自分の拳を自分で受ける……なんてかなり器用な芸当だ。
しかも、出来はしても今の龍紀の様な青あざが出来るほどの威力は出せないだろう。
「……千鶴。どういう事ですか」
「!」
ただ、刹那が龍紀の説明に納得出来ずにいたところで、宗玄さんは自分の娘に問いかけた。
口調こそいつもと同じように丁寧だが、感情の様なモノは感じられず、あくまで業務的な問いかけ……でも、逆にそれがとても冷たく感じる。
「もっ、申し訳ございません。お父様」
今、千鶴が言った謝罪と『お父様』という言葉が……どことなく震えていた様に聞こえる。
それだけで、宗玄さんが家ではかなり厳格な父親だという事が分かったような気がした。
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