第8話
「……よし」
休日、俺は早速待ち合わせした場所に向かおうと立ち上がった。
荷物……というほどのモノはないし、とりあえず『カード』さえ持っていれば、今は……後はスマートフォンと財布くらい持っていれば十分だ。
空がいるであろう孤児院は、実はそんなに遠くはない。まぁ、だからこそ突然現れる……なんて芸当が出来たのだろう。
ただこれも、今思えば……というヤツだ。
「…………」
二人との待ち合わせ場所は、あのスーパームーンがよく見えると刹那に紹介された場所だ。
元々人目につきにくいという欠点はあるが、周りに被害が及ぶこともあり得るという事を考えると、学校で待ち合わせをするよりはマシだろう。
「さて」
一足早く着いた俺は、スマートフォンに電源を入れて時間を確認した。こういう時、スマートフォンは役に立つ。
「げっ」
時間は待ち合わせより20分早い。
「参ったな、早く着きすぎた」
念のため……と早く家を出たのと、一つも信号に引っかかる事なく順調に来れてしまったのが原因だろう。
「はぁ。いつものなら2、3こ引っかかるモノなんだが……なんでこういう時に限って引っかからないんだ?」
いつもの事を考えた上で行動したというのに……コレは果たして『運がいい』と言えるのだろうか。
「まぁ、それはいいとして……」
こんな何もないところでどう時間を潰したモノか……。
「ん?」
そう悩んでいるところに『一台の車』が止まった。
見た目は普通のどこにでもある普通乗用車なのだが……俺はそのナンバーに見覚えがある。
ただ、ここは刹那曰く『穴場スポット』だ。こんな場所を知っているのは、天体観測にのめり込んでいる人くらいだろう。
しかし、時間はまだお昼時。いくら天体観測にのめり込んでいる人とは言え、こんな時間にここに来るとも思えない。
そうなると……思い当たる人間は『一人』くらいなのだが。
「いっ、いや。まさか」
俺は「さすがにこんなところには来ないだろう」と思っていると、その車から一人の男性が降りてきた――。
■ ■ ■ ■ ■
「刹那ー、ってあら? どこか遊びに行くの?」
玄関先で靴を履いていると、母さんが俺に声をかけた。
「えっ……と、うん」
「ふーん」
母さんは、俺の言い方が気になったのか怪訝そうな表情を見せた。
「なっ、なんだよ」
「別に? あんたがどこに遊びに行こうが勝手だけど、あんまり遅くならないようにしなさいよ」
俺は母さんのその言葉に「あっ、ああ」と、頷き家を出た。
「……完っ全に疑っていたな」
母さんも瞬のお兄さんの想さん程ではないが、かなり勘が鋭い。もちろん、それら全てが当たるわけではないが、その的中率はなかなかなモノだと思う。
「母さんがああ言った時は早めに帰らないとな」
ただ、そうは言っても今日は早めに帰れるか正直微妙なところである。
「下手をすると、帰れるかどうかも……はぁ」
俺は一人ため息をつきながら、待ち合わせ場所に指定した『あの場所』へと歩き始めた。
「……ん? あれは」
しかし、近所の公園を差し掛かった。
「なに……しているんだろ? あの人。こんなところで」
俺の目の前には、見覚えのある公園……なのだが、そこに立っている人の服装は『執事の格好』という異様な光景が広がっている。
ただ、その『執事の格好の人』に俺は見覚えがあった。いや、そもそも『執事』なんて俺は『一人』しか知らない。
知らなければサラッと流せば良かったのだが、気がついてしまったのだから仕方がない。
俺は、仕方なく公園に立っている『瞬のお兄さんの執事』である
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