第6話


「……いつからですか」

「いつから……か。うーん」


「実は昨日」

「……」


「瞬の家の近くに行ったんだけど。えっと、一昨日になるのかな?あの万引き未遂の小学生のことの話もしたかったけど……」

「行ったけど、瞬さんが家にいなかった……」


 刹那は空の言葉に「そう!」と言うように人差し指でさした。


「それで、仕方ないからその日は帰って、次の日に少年と会った公園の近くを行ったんだよ。そしたらさ、川の音と川に誰かが入っているような音がしてさ……」


「……ちょっと待って下さい」

「ん?」


「川に……人が入っていたのが分かったんですか?」

「えっ? うん……」


 刹那はさも「当たり前」という顔をしている。


「……」


 確かに「刹那は物凄く……正直、引くぐらい耳がいい」とは聞いていた……が、まさか川の音と人間が川に入っている音を聞き分けられるとは思っていなかった。


 しかも、距離が目と鼻の先ならば……まぁ納得は出来なくてもギリギリ信じられる。でも、川から公園の距離まではかなりは離れていたはずだ。


「……」


 それなのに聞こえていた……という事は、本当に耳がいいのだろう。


「……まぁ、こんな季節に川に入るなんて、バカなことをしている奴が気になってさ。ちょっと見にいったら……」

天野あまのしゅんだった……と」


「わざわざフルネームじゃなくてもいいけど……。まぁ、そうだったんだよ。しかも、かわいい女の子と一緒っていうオマケ付きだし……。一瞬、友情を疑ったね」

「…………」


 スッ……と一瞬、真顔になっていたけど……すぐに取り繕ったように、ニヤニヤとした顔になった。


「……すみません」

「いや、そこは謝らなくていいけどさ。でも、それでなんとなく疑っていたことも、確信につながったよ」


「そう……ですか?」

「うん。だってさ、今まで人間には全く関心がなかった奴が他の人に世話を焼くとか……今までの瞬じゃ想像もつかなかったよ。まぁ……、突然『星座』に興味を持つっていうのも実は、ちょっと引っかかっていたし」


 そう言いながらも刹那は少し苦笑をし、そして少し寂しそうな顔をした。


「周りの人は瞬のことを『冷たい』とか言うけど、実際は、瞬は優しい人間なんだよ? それは俺がなんだかんだで長い付き合いでよぉく知っている……。まぁ、君も多少の付き合いで少し分かるんじゃないかな?」

「それは……分かります」


 瞬は自分自身のあまり話をしない。しかし、なんだかんだで人にお節介をしてしまう。


 彼は『見えるから……』という理由で『幽霊』たちの成仏をさせるために色々労力と時間をかけているらしいし……と、空は心の中で呟いた。


「…………」


 もちろん刹那さんは知っているとは思うし、それをあえて言う必要もない……と、空はあえてその言葉を言わなかった。


「……今、当てはまった事があったのにあえて言わなかったね?」

「すっ、すみません」


「まぁでも、俺も分かるよ。人だけじゃなくて幽霊にも世話を焼いてさ。大変じゃないかな……って」

「…………」


「俺も少しくらい何か出来れば……って思うけど、でも俺は……幽霊たちが見える光景から逃げちまったから……さ」

「……えっ?」


 ポロッとごく自然に出てきた刹那の言葉に一瞬そのまま聞き流しそうになったが、空はその言葉を逃さず、自分の耳を疑った。


「幽霊たちの見える光景から逃げた……?」

「うん」


「あっ、あのそれってつまり……」


驚いた顔で空は刹那を見た。


「……うん。実は俺、この眼鏡を外せば『幽霊』を見ることが出来る。それに俺、別に視力が悪い訳じゃ無いんだよ……」


 あえてなのか……何事も無いかの様に自然な状態で刹那は言葉を続けた。


「なっ……なぜ?」

「色々考えたあげく、どう言えばいいのか分からない……って顔をしているね?そうだな……ちょっと昔話の話をさせてもらおうかな……」


 刹那は座り直し、綺麗な星瞬く夜空を見上げながら瞬との出会ったばかりの頃の話を話始めた――――。

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