第4話


「へぇ、良かったじゃん。それで、場所は?」

「ん? ああ、どうやら小さい頃にお世話になった孤児院らしい」


 刹那の反応は意外にドライだった。


「孤児院? 養子に行った家じゃなくてか?」

「ああ」


「ふーん、それは妙だね。普通なら、その『儀式』とか呼ばれる事をするために大事な人間を手元に置いておきそうなモノなのに」

「それは俺も思った」


 あの家の人間の事だ。そんな重要人物を出入り自由な環境には置かないと思うのだが……。


「うーん。もしかしたら、まだカードが全部揃っていなかった……っていうのが原因かもね」


「? 別にカードを揃えるくらいの人員はいそうだと俺は思うが……」

「ああ。兄さんたちの話を聞いている限り、母さんの実家はかなりの大所帯だと推測される」


 まぁ、俺はその内の実苑さんと聡さんしか知らないのだが……。


「うん、それはそうなんだけどさ。それだけ大所帯なら当然、反対する人間もいるって事だよね? 今までの話を聞くと、結構やっているみたいだし」


「……」

「……」


 確かにそうだ。


 人数は、増えれば増えるほど物事をするには有利だ。ただ、それは『賛成』をしてくれる人間が多い時の話である。


 もし、反対が多ければ、それだけ説得するなどに時間がかかり、最悪手を貸してくれない可能性もある。


「まぁ。コレはあくまで俺の想像だけど、もしかしたら、今まで色々しでかして見切りを付けた家も結構あったのかも知れない。だから、人員が割けなかった」

「……そうか、人員が割けなければいる人間がやるしかない」

「あり得るな。聡さんの言っていた通りなら、失敗すればその責任は家やそのやった本人に擦り付けられ、本家は知らぬ存ぜぬを貫き通す」


 本当は、本家の人間に言われてやったのに――。


「なんでも『多ければいい』ってもんじゃないね。で、話はそれだけ?」

「いや、実は兄さんが俺に『空と会う気はあるか?』って聞いてきたから、一応返事をした」


「会うって?」

「ああ、それと兄さんは俺が空がいる孤児院にいる時に本家に乗り込むらしい」


「ふーん」

「妥当だろうな」


「でも、会うのは今すぐって訳じゃないって言われてな」

「なんで? すぐに会えばいいじゃないの? 今、カードを何枚か持っている瞬は危ないワケだし」


「ああ、それは俺も思った。ただ、兄さん曰く『あの儀式を行うにはタイミングがある』って言われてそれで、刹那に空とあった日の話をした上で今の言葉の意味を尋ねてみるといいと言われて電話は切れた」


「ずっ、随分勝手なお兄さんだね。相変わらず」

「それは俺がよーく知っている」


「それにしても、儀式のタイミングねぇ。そういえば、あの日は『スーパームーン』だったよね」

「ああ。でも、刹那は家で母親の監視の元で勉強する羽目になり、代わりに俺が写真などを撮りに行った」


 俺がそう言うと、龍紀は少し意外そうな表情を見せた。多分、龍紀はその時の刹那の成績を知らなかったのだろう。


 普通、成績なんて自分と友人……後はせいぜい上位の人間くらいしか気にしない。少なくとも俺はそういう気にしない人間だ。


「ん? 写真を撮りに行った……って事は、天気は良かった……って事だよね?」

「あっ、ああ。雲一つない空だったな」


「なるほど、分かったよ。瞬のお兄さんが言いたいこと」

「本当か」


 俺がそう尋ねると、刹那は自信あり気に頷いた。

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