第20話
「おーい、大丈夫かーい……」
男は一人、森を歩いていた。辺りをキョロキョロと見渡し、大きな声を出して誰かを探している。
「おーい。あっ、いたいた。大丈夫かい?」
「はぁ……ああ」
ようやく見つけたのは体格のいい同じく男性だ。ただ、疲れているのか体を近くにある木に預けている。
「いいのかい? 確か注文は『あの二人を捕縛し、その場に放置する事』だっと思うけど」
男がそう聞くと、その人は小さくまたため息をついた。
「一応、時間稼ぎはした。それに、俺たちが失敗しようがしまいが本家の奴らはなんとも思わないだろうな」
その人の言葉に男は特に驚きはしない。むしろ「やっぱりか」とすら思ってしまった。
本家の人間は『責任を取らない。下手をすれば擦り付けすらしてくる』そんなヤツラばかりだ。
「それに、俺たちが言われた事をちゃんとしたら、俺たちは普通に捕まるだろうな」
「それはそうだけどさ。今まで僕たちがしていた事も十分逮捕されるような事だと思うけど? 思いっきりいいパンチが入っていたし」
男の言葉にその人は「あっ、忘れていた」という様子だった。
男性たちはさっきまで相手していた男女に色々と攻撃を繰り出している。それはもう、世間的に言ってしまえば完全に『傷害』に該当するレベルだ。いや、下手をすればもっと重い罪になってしまうかも知れない。
しかし、その人は別に気にもしていない様だ。
「まぁ、それならそれで仕方ないな。この話にのった時点で決まっていたような結末だろうし」
その人が疲れているのには、当然の様に訳がある。
要するに『力の使い過ぎによる疲労』だ。ただ、どうやら先ほどの男女のどちらかがその人の『トラップ』を見破ったらしく、いとも簡単にすり抜けた。
そして、男はどこにこの人がトラップを仕掛けたのか分からず、引っかかってしまい、自分の『力』に拘束される……という情けない状態についさっきまでなっていたのだ。
まさか、この人のトラップを見破れる人がいるという事には驚いた。
でもまぁ、今回は相性が悪かった……という事で男の方は、結構あっさりとそれで納得が出来た。
「……で? どうするんだい?」
「どうする……とは?」
「追いかけるのかい? それとも……」
「追いかけませんよ。あなたが拘束されたのに気が付き、思わず振り返ってしまった俺の一瞬のスキをつき、二人そろって逃げる……なんて状況判断がキチンと出来ている相手に、手負いの俺たちが行っても意味はありません」
「なるほどね。それは確かにそうだ」
「それに……さっきあんたが言ったような事実が出来てしまっている上に、さらに罪を重ねるようなマネはしたくないしな。俺は別に本家の人間とそこまで親しくないし」
「ははは、それはそうだ。僕もそうだし、うん。ここで僕たちは降りよう。どうやら、今回の話を聞いたほとんどの分家の人たちは降りているみたいだし、そこまでの義理もないしね。よし、そうしよう」
「……はい」
男は自分に言い聞かせるようにそう言い、木に体を預けているその人の片腕を取り、自分の首に回し、車のいる場所へと引き返していったのだった。
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