星を紡ぐ少女

黒い猫

第1章 牡羊座

第1話


「……なるほど」


 一応、話には聞いてはいたが……空を見上げると、そこには想像した以上のスケールで真っ黒のキャンバスに無数の星たちがキラキラと瞬いていた。


「しかも……」


 今日は運がいいことに年に一度の『スーパームーン』が見える。


「はぁ。コレはまた……ずいぶんとおっきいな」


 しかし、この後残念ながらそんな『運のいい日』がとある人物との出会いによって、とんでもないことに巻き込まれた『運の悪い日』に変わってしまう……という事をこの時は気が付いていない。


「はぁ……これで、あいつらがいなければなぁ……」


 盛大にため息をつきながらチラッと草むらに目線を移した。俺の目線の先には、影に隠れてジーッと俺を見つめている『幽霊たち』の姿がある。


「…………」


 おかげさまで幼少期、俺は『彼ら』にかなり苦労させられた。ただ俺が運がよかったのは、あまり大事になる事が少なったからだろう。


 それに、俺は元々人見知りで口下手……という当時の自分の性格だけでなく、この当時から若干の『面倒くさがり』ということもあり、わざわざ自分から『面倒ごとの種』を言うこともなかった。


 ただ今まで『幽霊たち』と何となく付き合ってきて分かったことがある。

それは、この『幽霊たち』は下手に俺たち人間が自分から関わらなければ大人しい。そして、やけに聞き分けがいいというのも関わってみて分かった事だ。


 ちなみに『幽霊たち』は自分以外の他人の人間関係に頭を抱えることはほとんどない。ただ『幽霊』という存在は、大体この世に未練がある。


 そういえば……と、俺はこの関わった女性の幽霊の事を思い出した。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


 ――――その女性の幽霊は「自分の葬式を見たい」と突然言ってきた。


 俺は女性の寂しそうな表情を見て「なんとかしてやるか」と、そんな彼女を連れて遠目で彼女の葬式を見に行ったのだ。


ただ部外者の俺が目の前で見ることは出来ない。だから「遠目になる」と前もって彼女に断りを入れた。


 俺としては、彼女の存在がせめて家族だけにでも見えればよかったのだが……見えたら見えたで、それはそれで問題である。その言葉を聞いた彼女は「構いません」と承諾してくれた。


『…………』


 彼女は自分の葬式を遠目で見て、最初は無言のまま見つめていたが、最期は笑顔で俺に「ありがとう」と言ってそのまますぐに逝った。


「…………」


 俺には……いや、彼女のその時の気持ちは誰にでもに分かるものではないだろう。だから、俺は何も言わずただ彼女が逝った空を見上げることしか出なかった……。


 そもそも俺がこんなことを始めたのも『幽霊たち』に褒めて欲しいとか、お礼を言って欲しいと思ってしている訳ではない。


 俺はただ彼らを見る事が出来る人間だからこそ、出来る最大限の事をしたいという思いから俺が勝手に始めた事だ。


 ――要するに俺の自己満足だ。


「……ん?」


 突然草むらから動物か何かが入ってきたような音がした。しかし、ここを聞いた『腐れ縁』の友人は「ここは『穴場』だからそうそう人は来ないと思う」と言っていたはずだ。


 そんな話を俺にしておきながら、なぜこの場にその友人がいないのかというと……その友人は、テストで赤点を取ってしまい、母親の監視の下、絶賛勉強中のはずだ。


 ――俺がそもそもここにいるのは、そんな友人の『あいつ』から頼まれて来たからである。


「…………」


 もしかするとあいつ以外でこの場所を知っている人間がいるのかも知れない。

ただもし、そういう人がいるとしたらその人は『天体観測』が趣味の相当な玄人としか思えない。


「行ってみるか……」


 こんな場所を知っている『人間』とはどんなヤツだろうか……。


「…………」


 結局、俺はただの『興味』に勝つことが出来ず、友人から借りた荷物を持ち、その場からゆっくりと離れた……。

 しかし、俺があそこに行って『彼女』に会って、ああしなければ……とこの後の行動を後になって悔やむことになるのだった……。

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