第11章 海豚座

第1話


 午後の教室……。四限目を終え、購買ダッシュの後、元々持ってきた弁当と購買で手に入れた食料を食べ終た、元気な男子生徒たちは外に積もった雪をどけている。


 まぁ、要するに『雪かき』をしていた。


「……」


 普通にこの話を聞くと「なんて素晴らしい生徒だ」と言う人もいるだろう。


 ただこの雪かきをしている生徒たちは授業中に居眠りをし、それが教師達にバレてしまい、この『雪かき』を罰として言い渡されたのだ。


「……せめて誰かしら見ておけよ」


 そんな言葉が出てしまうほど、この生徒たちが『雪かき』をしている監視役の教師がいない。


 だからまぁ……つまり、どういうことが起きるかというと……。


「ッ!」

「うわっ! 冷てぇっ!」


 それが当たった生徒は冷たそうに『それ』がその部分を見ている。そして、『それ』を投げた人物に狙いを定めて冷たそうに『それ』を丸めながら思いっきり投げつけた。


「おっと! わははっ! 甘い甘い!」

「くっそー!」


 そうこうしている内に投げあいになってしまう。


「……」


 これが冬によくある話の鉄板『雪かきからの……雪合戦』である。一年前のこの時期は『あいつ』は常連だった。


「……」


 俺は一年前を思い出しながらそんな外の景色を眺めていた――。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「…………」


「ぉーい……おーいっ!」

「はっ!」


 俺はついさっき思い出していた『あいつ』こと小学生の頃からの友人である刹那に声をかけられてようやく我に返った。


「大丈夫か?」

「りっ、龍紀もいたのか」


 俺の様子を気にしてか龍紀もプリントの配布を終え、俺に話しかけた。


 刹那とは小学生の頃からの付き合いだが、龍紀と知り合ったのはつい最近だ。サッカー部の主将で現生徒会長。試験でも部活動を続けていながら五位以内に入るという素晴らしい人材だ。


 しかし、ここまでの『生徒の模範』とも言える龍紀だが、一年前までは不良生徒だったというのだから不思議なモノである。


「悪い……。なんでもない」

「なんでもなくないだろ?」

「そうだよ。この間の修学旅行が終わってからなんか変だよ?」


「いや、本当になんでもない」

「瞬自身がそう言うならいいけど……」

「何かあったらちゃんと言ってよ?」


 そう言って二人はお互いの席に座った。


「……」


 あまり深いところには『介入しない』。それが、俺にとってはとてもありがたい。


 人によっては『介入して欲しい』こともあるだろう。そんな時は、なぜか二人はまるでタイミングを測ったようにほぼ同じタイミングで聞いてきた。


 本当に……良く出来た友人たちだ。


 ただ、その事を面と向かって言うと……刹那は調子にのってしまい、龍紀は気味悪がってしまう。


 だから、それを言うことは……多分ない。


 でも、そんな人間の出来ている二人だからこそ、この『俺個人の話』に巻き込ませる訳にはいかない……。


 俺はそんな気持ちで午後の授業に臨むのだった…………。

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