第7話


 実苑と聡はゆっくりと歩いて帰る瞬たちを見送った。


「……まさか瞬にお兄さんがいるなんて……そんな話。全然してなかったよなぁ」


 瞬たちの姿が見えなくなってから実苑はそう小さく呟いた。その言葉の中には「よく分かったね」というニュアンスも含まれているのだろう。


「……」


 瞬の態度で、俺たちは瞬の兄が『第三者』であることはほぼ確定だろう……という結論に達した。


「でも……結局、お兄さんがどんな人か分からないんじゃ、どうしようもないよなぁ」


 実苑は天を仰ぐように空を見上げた。


「……」


 実際のところ、瞬は『お兄さん』の言葉を聞いてからほとんど俺たちの声も届いておらず、とても話を聞けるような状態ではなかった。


「よっぽどお兄さんが怖いんだな……」

「怖い……か…………」


「どうしたんだ?」

「いや、確かに怖いとは思っているけど、それとは違う……『言葉』に縛られているような雰囲気があったな……」


「うーん……。そう?」


 聡の言葉に「よく分からない」といった顔で実苑は首をひねった。


「まぁ……、あくまでそう感じただけだ。それに、瞬の『お兄さん』は……どんな人なのかは瞬に聞かなくてもなんとなく分かる」


「えっ? そうなのか?」

「ああ……」


 そう言って聡は携帯電話の『ある画面』を実苑に見せた。


「えっ、こいつ?」

「ああ……多分そうだ」


「………」

「………」


 その画面には『若社長の趣味は天体観測?』の記事と『白に近い髪に赤い目』といったある意味で特徴的な男性の姿があった。


「たっ、確かに似てなくもないけど……髪の色とか違うし……ついでに、名字が違うぞ?」


「そこら辺は個人の事情があるから実際どうなのか分からない……。だが、その可能性は充分ある……」

「まぁ……そうだよなぁ」


  これも瞬本人から聞いた訳でもないので証拠というものはない。


「どうなるのはアイツら次第……か」

「そうだな……。俺達がどうこう出来る事でもないからな」


 俺たちは互いに見えなくなった瞬達を案じながら綺麗になった『神社』に入り、あの時封印した際に使った『鏡』を見ていた……。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「………………」


 結局のところ『兄さん』を思い出してから俺は修学旅行中……ずっと静かに過ごした。


 そんな俺を『何となく事情』を知っている刹那と龍紀は俺をそっとしてっくれた。


「……」


 そして、今の俺は修学旅行を終え、帰宅している途中だった。


 俺は……本当に、そんな気遣いをしてくれる友人たちに「ありがたい」と心の中で感謝していた……のだが、それも修学旅行を終えた今だからこそだ。


 修学旅行中の俺は……そんな事を思える余裕がなかった。


 刹那も龍紀も俺が静かな時はそっとしておいくれる……空もそれは同様だ。


 まぁ……刹那は時々子供っぽいところもあるが、こういう大人な対応が出来る友人が俺にとって、とてもありがたい。


「……」


 そう感じながら俺は基本的に何も入っていない郵便郵便受けを見た……が、いつも何も入っていない……。


「ん?」


 しかし、なぜか郵便受けには珍しく『郵便』が入っていた。


「なんだ、コレ……手紙……か?」


 ただそれは真っ白い封筒に入っている……一見すると、何の変哲もない普通の『手紙』の様に見える。


「………………」


 しかし、この封筒には宛名がない。


「こっ、コレ……!」


 そのかわり…………深い青。紺色にしては少し淡い色の龍のシールが貼られていた。


「まっ…………まさか」


 俺ははやる気持ちを抑えつつ手紙をその場では開けず、持って自分の部屋へと急いで入って行った…………。


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