第7話
そんな話を空としてから、何事もなく時間は過ぎ――。
「ねぇ、この間。瞬が言っていたのって……」
「ん?」
「それって『結構大きめの犬』の事?」
「……え」
あまりの寒さに教室にあるストーブに温まっていた俺に対し、突然刹那がそう切り出した。
「どうしたんだ、突然」
「いや、実は……」
刹那曰く、実は龍紀から話を聞き、さらに俺の話も気になったらしく、刹那は話をした翌日から頻繁に図書室を利用していたのだという。
「まぁ、集中出来るのであればいいんじゃないか?」
「うーん。俺としては、別に図書室じゃないと集中できないって訳じゃないんだけど」
「じゃあ、なんでそんなに行っているんだよ」
「あはは、それもちょっと小耳に挟んだことがあってねぇ」
なんて言いながら、刹那は分かりやすく俺から顔をそらした。
「……おい」
元々、俺があまり流行とかに興味がないという事もあり、普段は俺に合わせてくれているが、刹那自体は『流行』とか『話題』という言葉が大好きな部類の人間だ。
「いやー、ははは」
今回もどうやら『図書委員で勉強をすると成績が上がる』という話を聞きつけて、わざわざ図書室に行っていたらしい。
「そっ……それに、瞬が見たっていう『動物』みたいなモノも気になったし」
「はいはい、そうかい」
どうやら刹那にとっては、俺の話は二の次の様だ。
「で?」
「え?」
「いや、そんだけ噂になっているんなら、さぞかし効果があるんだろ?」
「え……っと、それは……」
刹那曰く、実際のところ勉強もはかどると言えば……確かにはかどるらしいが、そんな噂になるほどではなかったらしい。
「でもさ、雨宮元生徒会長が来た時は本っ当にはかどってさ」
「そんなにか」
「うん、そんなに」
「…………」
しかも、その日に勉強したところは実際、小テストにも出たらしい。
「本当に、テストに出て驚いたよ。普段はしないところなんだけど、なんとなくやっといた方がいいかなー? くらいにしか思わなかったのに、やっておいて正解だった」
この刹那の興奮具合を見ても、本当に珍しい事だったのだろう。まぁ、確かにそのテストは、かなりいい線いっていて、俺や龍紀とも成績が近かった。
「それで、雨宮さんが帰るとき……結構大きな犬がその後ろについて行っていたのを見て。もしかして、その『犬』が瞬の言っていた『動物』かな? って、思ってさ、毛の色も黒かったし」
「…………」
俺は確かに「俺が見たモノは『毛』があった」とは言った。だが、俺が見たのは影があった場所だ。
そんな場所では『色』までの識別は出来ない。
「瞬? どうしかした?」
「いや、悪い。刹那がそこまで『大きい』って言ったのが驚いてな」
「そう? 結構大きかったよ? ゴールデンレトリーバーとかシェパードとかの様な……」
「それは、大型犬か」
俺が最初に見た時は、そんなに大きかったようには思わなかったが……。
「うん、そう」
「…………」
しかし、相手は『カード』だ。俺の様に『縛られた常識』は通用しないだろう。
「……よし」
「?? 瞬?」
「会いに行くか、そいつに」
「いっ、いや……会いに行くって、どうやって? というか、分かっているの? どこにいるのかって分かっている?」
確かに、刹那の言っている事は分かる。
「大丈夫だ」
「……瞬がそこまで言うって事は、やっぱり『あれ』関係?」
そう言った刹那に、俺は無言でうなずいた。
「そっか」
でも、今回はそいつが『何の星座』で、大体の居場所も分かっているから、会いに行きやすい。
「ただ、問題があるとすれば……」
「何??」
そう、問題があるとすればそれは……。
「相手の『カード』がこっちの話を聞いてくれるか……って、ところだな」
俺がそう言った瞬間――。
「あっ」
「…………」
何とも言えない、ちょうどいいタイミングで着席を知らせるチャイムが鳴ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます