第3章 山羊座
第1話
『あっははは! うわっ! 危ねぇだろ!』
『あー! 避けんじゃねぇよ!』
「はぁ……」
外から聞こえる同級生たちの声…………いや、上級生かもしれないし、下級生かもしれないその声を尻目に俺は、大きくため息をついた。
しかし、この笑い声には何がおもしろい……とか、特に理由はないだろう……。
「…………」
ただ正直ここまで大声で笑うほどの事は、俺の日常にはない。まぁ何はともあれ、俺は今日も学校に来ていた。
俺の通う学校は山の上にある。その為、秋である今、綺麗な紅葉が間近で見ることが出来る。
「ふぁっくしゅんっ!」
「うわっ、きったねぇな」
しかし、その反面春には花粉が大量に発生し、花粉症の人間にとってはかなり辛い時期が訪れる。
何にも良い面があれば、悪い面もある……。
普通に考えれば当たり前な話だが、良い面を見れば人はそれしか見なくなり、もし悪い面を見たならばその良い面は薄れしてまうモノだ。
ただ、その逆も……また
そこら辺は人間の悪い癖だ……と感じながら俺は窓から見える空を見上げた。
「……」
今、俺は学校の中の『とある場所』にいるのだが、正直な話。
俺は来なくても良いはずの場所だ。ではなぜ、俺がここにいるかというと……簡単に言えば『人待ち』をしているからである。
「へーい!」
「…………」
「おーい、なんだよ。このローテーションッ!俺がせーっかくテンション上げているっていうのにっ!」
「はぁ、うるさい。頭に響く……」
もう少し声のボリュームを下げる……という事が……出来ないのだろう……と諦めの表情と共に、この残念な宮ノ
「えー。なんでだよ?」
「……仕方ないだろ。察しろ」
「あー」
「…………」
俺がそこまで言ってようやく刹那は俺の疲れきった表情に気がつき、何かを察した様だ。
「ふーん、昨日もか……。大変だね」
「まぁ……。未だに慣れないがな」
「…………」
「…………」
もう、なんだかんだで『あの日』からもう二週間経った……。それを考えると、時間の流れの速さに驚く。
俺、
そして、俺はどうやらこの少女。空の大事な儀式を邪魔したらしい。しかも、とても大事なカードをばらまいてしまった。
――――結果、俺は空と共にばらまかれたカード集めることになってしまった……。
しかし、今日俺が寝不足なのは全くの別件だ。
俺は、昔から『幽霊を視ること』が出来る。そのことがきっかけで昔から幽霊たちの願いや手助けなどをしており、今ではカード探しと平行している訳なのだが……。
昨日の件は、幽霊からの頼み事だった。
基本的に願いを言ってくるのは亡くなった場所に行きたいとか家族に会いたい……がほとんどだ。
しかし、ごくたまにいつものテイストと違う頼みごとを言ってくる幽霊もたまーにいる。察しのいい人はそこで分かると思う。
実は昨日。幽霊が俺に頼んできたのは……まさかの『将棋で負けたい』だったのだ。
俺自身、将棋を全くしたことがない……というわけではなかった。だが、俺は少しかじっただけのいわば『素人に毛が生えた程度』の実力しかない。
対して相手は、後で知ったことだが元プロ棋士の幽霊だ。
しかも、若くして亡くなったらしくニュースや特集も組まれるくらいの人物だった……らしい。
――そんな相手に俺が勝つのは正直、厳しい……というより無理難題な話だ。
ただ、本当になんでうっかり一回は勝てるかも……と思ってしまったのか……それが大きな間違いだと気が付かなかったのだろうか。
今ならその時の俺に一発げんこつを入れてやりたい気分だ。
最初は『ビギナーズラック』を期待したが、勝負数が十を超えた辺りで、俺は「あっ、これは無理だな」と気がついた。
今にして思えば、もっと早く気がつくべき話だ。
紆余曲折をえて、結局俺はネットカフェのパソコンを使った。ちなみに、「こんな田舎にネットカフェがあるのか?」という話はこの際、無視である。
そして、俺は出来るだけ腕の立つ……。要するに、この幽霊が『負けられる』相手を探しては対戦を申し込んだ。
しかし、幽霊もやはりプロの血が騒ぐのだろう。どうも、勝負事になると『負けたい』という気持ちはどこかに消えてしまっていた様に思う。
だから……まぁ、簡単に言えば本気で勝とうとしていた。
そのせいか、俺の予想を
まぁ、その対戦でネットの住民が大騒ぎしていたのだから……――――あの棋士の勝負が、よっぽどの『熱戦』だった……のだろうという事は分かった。
ただ……本人が満足した上で、成仏したのならそれはそれでよかった。
「うっ……」
でも、徹夜で学校に来て授業を受けるのはかなりキツイ。ふらつく頭を押さえている俺とは打って変わって刹那は……物凄くにこやかな笑顔だ。
今は一日の半分以上が終わり、昼休みを迎えてそろそろ眠気が襲ってくる一番辛い時間帯のはずなのにまだまだ元気だ。
「……お前は元気そうだな。」
「まぁなっ! 授業中いっぱい寝たし!」
俺は褒めたつもりではなかったのだが……なぜか刹那は胸を張っている。
「……自信満々に答えるな」
「いやー、頭では分かっているけどさ…ほら、先生の話がだんだん子守歌に……さ」
「……まぁ、分からなくもないが」
「なっ! 分かるだろ?」
実際に、今日は俺も寝落ちしかけたことが何度もあった。
しかし、授業中寝たことのない人間が寝たら目立つ……という事よりも、刹那が見ている前で寝る……なんてことは俺のプライドが許さなかった。
「それに、それで授業中に寝てプリント提出出来ませんでした……は、さすがにな」
「いや、だってさ。その時、俺の頭は星空を駆け巡っていた訳だから……」
「お前が駆け巡らせなくちゃいけないなのは、自分の脳内じゃないか?」
「ひどいっ!」
「それに、俺はここに用事はなかった……」
「それは悪かったって!」
そう、俺たちが今いるのは『職員室』だ。
通常、昼食の時間でゆっくりとしたいはずのこの時間――。俺たち……いや、刹那が授業中に終わらせないといけないプリントを提出しに来ていた。
そんな人間が来るのは、教師はさぞ迷惑だろう。
まともに授業を受け、提出してくれればこういった邪魔もなく、ゆったりと優雅なランチタイムを満喫出来ていたに違いないのだから……いや、そんなに優雅じゃないか……と俺はすぐにそういった想像を取り消した。
「そう言えば……」
「……なんだ?」
「あっ、いやぁ……」
「なんだよ。聞きたい事があるならちゃんと聞けよ」
何を思ったのだろうか、刹那は突然思い出した様子だったのだが、なぜか話をそこで止めてしまった。
そうなってしまうと、全然刹那が何を言おうとしているのか分からない。
「……いや、大したことじゃないんだけど……」
「だからなんだ?」
「えーっと、この間かなり雰囲気のある『洋館』に行った……じゃん?」
「……行ったな」
「それで……さ」
「……なるほどな」
どうやら刹那はあの『洋館』がどうなったのか……を知りたいらしい。しかし、そこまで言いにくいものなのだろうか。
「もう……大丈夫だ」
「……えっ?」
「問題は解決したからな」
「……そっ、か」
「ああ、だから刹那が気にかける必要はない」
「瞬がそう言うのなら……うん。大丈夫だね」
それを聞くと、刹那はホッと胸をなでおろした。
「あっ、じゃあさ」
「うん?」
俺がそう聞き返した瞬間――――
「~~♪」
「あれ?」
「どうかした? 瞬」
「いや、なんか……音が聞こえないか?」
刹那は俺に促されるがまま耳を澄ませた。
「~~♪」
「そうだね……聞こえる」
「それにしても、コレ。どこだ?」
「うーん……」
刹那は、辺りをキョロキョロと見渡し、音が聞こえる場所を探った……。
実は昔から耳が良い。この間の『洋館』でも「実は刹那だから聞こえている」という言い訳を自分でしたくなるほどである。
――しかし、あの洋館では空にも聞こえていた……。
実は昔から刹那の耳の良さをたまに利用させてもらっている。そのおかげでこの間も特売セールでお得商品を買うことが出来た。
「こっち……かな」
そう言って刹那が指した方向は職員室から見て左側だった。そこは、学校の人間からは通称『別館』と言われている場所だった――――。
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