第6話


「……」

「……」


「そんじゃっ、早速始めようか!」


 一通り収拾がついたところで実苑さんは聡さんに促した。


「はぁ……そうだな」


 瞬と刹那のやり取りを呆れ顔で見ていた聡さんも一息ついて話を始めた。


「……まず、龍紀はこの間初めて会ったが、『幽霊』などが見えていない。それは嘘ではないな」

「はい」


 龍紀は首を縦に振った。


「まぁ、たまに嘘をつく奴はいるけど……、こいつのは嘘じゃない」

「……で、話の本題にはいると……だ」


 そう言いながら聡さんは鋭い視線を俺たちに向けた。その鋭い眼光に俺たちは思わず背筋を伸ばした。


「カードがバラまかれた時にその場にいて、それまで『カード』の存在を知らなかった瞬と『カード』の持ち主の空もまぁ……除外だろう……」

「ちょっと待って! 俺じゃないって!」


 その言葉を聞いた瞬間、刹那はやはり慌てていた。


 ――当然だろう。


 いきなり疑いの矛先が自分に向いて慌てない人間はそうそういない。しかも、基本的に刹那はテンションが高めの人間だ。


「俺もお前じゃないと思っている。空から聞いた話から思うにお前が『カード』の存在を聞いたときに驚いていたし、空と話したのもその時が初めて……そうなると今回の様な状況を作るのは、難しい……」

「じゃあ」

「……?」


 実苑さんは結論が待ちきれないというように聡さんに尋ねた。


「一番あり得るのは『第三者』しかも……『見る力』も『見せる力』も両方の力が強い人間だ」


「……力の強い……人間」

「?」


 実は一人だけ心当たりがあった。でも、俺は思い出したくない。『あの人』の事を…………。


「………………」


 そんな俺の姿を……聡さんは見つめていた。


「瞬……」

「え……」


 そして、そう俺に尋ねた。


「確か、お前には『お兄さん』がいるだろ?」

「えっ? そうなのか?」

「…………」


 聡さんの言葉が俺の頭の中で響き渡り、『あの人』の事。


 俺の実の兄である『龍ヶ崎 《りゅうがさき》そう』の別れ際に言った言葉を思い出した。


『瞬、お前はどんなことがあっても俺から逃げることは出来ない……』


 その言葉は小さい頃の俺に刺さった。


 …………あの頃は『矢』の様に刺さっていた言葉が今では『鎖』の様に俺を縛っているのだと俺はこの時、実感した……。


「しゅん? ……瞬!」

「はっ!」


「大丈夫か?すごい汗だけど……」

「えっ?」


 我に返った時、俺は冬だというのに知らないうちに……全身から汗をかいていた。しかし、それは暑さからではなく……冷や汗だった。


「すみません……」

「いや……俺もそこまで追い詰めるつもりはなかった……。悪い……」

「いえ……」


 俺はそのまま無言になった。

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