第17章 大犬座

第1話


 俺にとっては今が高校最後の学年になる……。


 そして、高校を卒業してからの事を考えると、コレが大事な試験だという事は頭ではよくわかっている。


「はぁ」


 それでも手がつかない……集中出来ない。なんて事は誰だって経験があるだろうし、よくある話だろう。


 頭では「勉強しないと」と思っている……思ってはいるのだ。ただそれなのに出来ない。


 でも、全くしていないわけじゃない。ほぼ毎日机に向かって勉強していた。それにも関わらず、ここ最近は本当に身が入らないのだ。


「……」


 こんな呆けた姿を両親に見られたら、なんて言われるか分かったもんじゃない。


 ただ怒られるだけならまだしも、机に向かって呆けていて勉強していなかった事に対し、しばらくはグチグチ言ってくる姿は目に見えている。


 ――それは非常に面倒だ。


「はぁ……あ」


 俺の家で『大学に行かない』なんて選択肢はそもそも存在すらしていない。一応、俺には学部を選ぶ権利はあるが、入る大学……というか試験を受ける大学は事前に決められている。


 でも、偏差値が親たちが決めたその大学よりも上ならば、別の大学に行っても問題ない。


 ――むしろ、大喜びする。


 ただ、その逆になると……もう大変だ。自由なんて失くなり「自分でやらないなら……」と家庭教師を付けられ、さらに両親の監視が付いた勉強漬けの毎日が待っている。


「…………」


 今のところ、何も問題なく試験もパスしているが、今度ある試験は今までの模試とは比べモノにならないくらい『重要』だ。


 ここで失敗してしまったら、今までの努力が水の泡になってしまう……というくらい重要だ。


「それなのに……」


 ――全然集中出来ない。


「…………」


 俺の短い今までの人生で『失敗』なんて事はない……と自信を持って言い切れる。


 人によっては「自信過剰」だとか「なんの自慢だよ」とか言うかも知れないが、俺自身がそう思っているのだから別にいいだろう。


 成績も校内でほぼトップを維持し、部活動でも部長を務め、なおかつ生徒会の会長も務めた。


 特に問題も起こしていないから、内申書は問題ないはずだ。


 後は、この『大事な試験』と『大学の入試』をパスすればいいだけ……それなのに、今のこの状況。


 自分の事のはずなのに、全然分からない。


「…………」


 もしかしたら、冬休みで偶然出会った『後輩』からの「先輩、頑張ってください」の言葉が俺の中で足かせになっているのかも知れない。


 そう思った理由は分からない。


 でも、なぜか……それを言われた瞬間。俺の中で『何か』が切れたような気がしたのも確かだ。


「ふぅ……」


 ――やめよう。


 彼だってそんな悪気があって言ったわけじゃない。むしろ、俺を激励とか鼓舞するために言った言葉だ。そんな彼を悪く言うのは良くない。


 それに、そんな風に思う事自体、俺らしくない。そもそも勉強がはかどらないのは自分の責任だ。


「…………」


 俺は、少し『気分転換』に窓に映る星空を見上げた。きっと毎日勉強漬けだから疲れているのだろう。


「…………」


 そう思い、俺は星空を見ながら小さく「はぁ……」とため息をついた。空にはキレイな星が瞬いており……。


「あ……」


 ふとした瞬間、目に入った『星座』をジーッと見つめた。


「あれは……」


 そして、ふと考えた。俺の目に今、映っているこの星座は……一体、何だろうか……と。

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