第15話


 日が高く登り、積もった雪をキラキラと照らしている。窓越しでその景色見ると、その眩しさは……目に刺さる様な光の強さだろう。


「…………」


 しかし、この『地下』とも言える一階よりも下にあるこの部屋にはそんな光は届かない。


「急がないと……」


 ある一人の少年が「午前中」と宣言した事もあり、お昼より少し前、その少年を含めた少年たちはこの家を後にした。


 ただ、ここが『山の中』という事もあり、移動にはどうしても『車』が必須だ。でも、少年たちはまだ『未成年』である。


 それは、つまり『車が運転出来る人物が少年たちを送ってやらないといけない』という事を意味している。


 そしてその少年たちの内、一人はここの家主の弟だ。


「――だから、見送りに行っているから今、この家はもぬけの殻だろう……って 事からな?」

「なっ……!!」


 突然刺した光と背後から聞こえた『人』の声に、思わず振り返った。


「はぁ、いくらなんでもそれはギャンブルが過ぎる……って僕は思うよ?」

「…………」


 その『人物』は「呆れた……」とでも言いたそうなため息と共に、そんな声の調子が聞こえる。


「……」


 そして、光の毛減から影になっている部分を見ると、どうやら『その人物』は部屋の扉に寄りかかっている様だ。


「でもまぁ、君の気持ちも分からなくはない。それくらい、急いでいたんだろ?」

「……」


 灯りも点けていない暗い部屋に差し込む『光』によって、その『人物』が照らし出される。


「そこまで分かっているのなら……どうして部屋まで入って来ないのですか? 龍ケ崎……想さん」

「どうして……って、そうだなぁ。別に入る必要もないから……かなぁ。ここは使っていない書斎だし」


 視線を下に向けながらも警戒は怠っていない。


「それにねぇ、黒見里くろみざとさとるくん。ここに君の『探し物』はないんだよ」


 まさか名前までバレていたとは……さすがだ。


「……そうですか」


 そんな気はしていた。だったら、ここにもう用事はない。


「せっかく来てもらったのに……いや、君が探している『それ』が僕の元に来てからずっと張っていたののに申し訳ないねぇ」

「……! 気づいていたのですか」


 俺は思わず表情に出してしまったが、当の本人は「まぁ……ねぇ」と言いながら俺の方を見ている。


「とりあえず、僕はちょっと怒っているんだよねぇ。君が僕の家の執事に成りすましていた事に対して……さ」

「…………」


 そこまで気が付かれていたとは……驚きだ。


 しかし、決して完璧な変装をした訳ではない。それに、俺自身がその人物の名前を語った訳でもない。


「普通に聞いていると、八つ当たりの様に聞こえるけどね。彼の立場に立って欲しいなぁ……って、思ってさ」

「…………」


「君がややこしい事をしてくれたおかげで弟が惑わされてしまってね。変に彼を疑ってしまったんだよ。執事としての彼はどう思うかな?」

「…………」


 俺としては「そんな事、俺の知った事か!」とでも大声で言いたいところだ。


「…………」


 しかし、そう言っている彼の眼は……怒っているように見え、それに加え、何かを探ろうとしているようにも見える。


「何も言わない……と、まぁいいけどさ。でも、俺としては仲のいい友達とか使えている主人……とか、信頼している人間から自分の知らないところで勝手に疑われるっていうのは、結構悲しいモノなんじゃないかなって思うわけだよ」

「……何が言いたいんですか」


「うーん、そうだねぇ。君たちがした事は、コレに該当するって話だよ。疑われるって悲しいものだよ。友達だけじゃなく、それこそ血のつながった兄弟とかさ」

「…………」


 まるでその言い方は自分自身の事を言っている様に聞こえる。


「…………」


 それにしても、この人の話し方がやけに回りくどい。確かに、この人の話し方は回りくどい事が多いが、それでもここまでワザとらしく話をのばす様な人ではないはずだ。


 たとえ話をしている相手が理解出来なくても、話を勝手に進めてしまう……そんな人のはず……。


「……」


 この感じは……そう、これではまるで『時間稼ぎ』をされているような――。


「……!」


 それに気づき、俺はすぐに彼から距離をとった。


「君の事、少し調べさせてもらったよ。弟がお世話になったみたいだし、君のお友達を悲しませるような事もしたくない。だから……」

「……なっ!」


 しかし、どこから現れたのか、突然現れた『その人物』によって俺は強引に口元に何やら布のようなモノを押し当てられた。


「っ! ……っぐ」

「君はここでゆっくり眠っているといいよ。何、悪いようにはしないからさ」


 そう言って彼、龍ヶ崎りゅうがさきそうは……ゆっくりと扉を閉めた。そして、彼が『使われていない書斎』と言った部屋は……再び暗闇に包まれたのだった。

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