第9話


「……とまぁ、そういう訳だ」


 俺は刹那、龍紀、空にも神と同じ様な話した。


「そうか……。つまり、瞬の家は刹那の思っていた『龍ヶ崎家』で合っているようだな」

「え?」


「実は瞬が来る前に俺たちでちょっと話をしていたんだよ」

「それで刹那がどうやら『龍ヶ崎家』という名前に心当たりがあったみたい」


「そっ……そうか」


 考えてみればこいつも『有名な家』の話くらいは多少なりとも聞いていてもおかしくない。


「でもさ、俺の知る限り『龍ヶ崎家』って……」

「俺もそれを考えた」


 そう、俺の家は色々と『秘密』な事が多い。


 例えば……それこそ『兄さんの存在』とか『家の場所』とか……言い出したら結構ある。


「ただ、兄さんの事を考えると……何も考えずに雑誌に出るなんてしないはずだ」

「……そうなんだ」


 そう、兄さんの性格を考えると……何も考えなしにあんな行動をする『理由』がない。


「うーん、それはそれとしてお兄さんの事は分かったけど結局、結論……何?」

「はぁ……要するに年始は実家に行くってことだ」


 ため息をつきながら俺はとりあえず結論だけ言った。


「なるほど……じゃあ、来年の年始は瞬は実家にいるって事か」

「家の場所は……分かる?」

「そうそう、久しぶりの里帰りだろ?」


「……さすがにそれは大丈夫だ」


 それに……というか連絡を入れれば『迎え』が来るらしい……なんて事は言わない。


 しかし、まさか空からそんな事を言われるとは思わなかった。


 刹那は『龍ヶ崎家』について多少は知っている様だけど、そもそも『俺の家』があるのは森に囲まれた和風な造りのパッと見た感じは『旅館』の様な建物だ。


 しかし、普通の人間があそこに着くのは難しい。


 理由をあげるとすれば……なぜか俺の家は地図のどこにも無い。しかも、『森のどこか』で場所を特定するのは中々難儀な話である。


 それでもまぁ、たまに道に迷って偶然来てしまう人間がいる程度で、意図的に行くのは難しい。


 おかげで俺の家に「友達が遊びに来た」なんて事はその当時は一切考えられないかった。


「でもさ……」

「ん?」


「手紙が来ただけでわざわざ行く必要性を俺は感じないけどな……」

「確かに……」


 龍紀にそう言われて二人もおかしいと思い始めた様だ。


「瞬、何か隠してないか?」

「………………」


 龍紀に対してさすがに隠し通せそうにない……か。そう思いながら息を一度止め、上を見上げ……。


「……」


 俺は視線を刹那たちに戻し、意を決して『あるモノ』を全員の前に置いた。


「!」

「おい……これって……」


「ああ……。空、これに見に覚えは……あるよな?」

「ある……けどなんで?」


 その後に続く言葉は「……ここに?」だっただろう。そして、空はそんな表情で俺を見た。


 俺がみんなの前に出したモノ――――そう、それは空が探している『カード』だった。


「分からない……。でも、これでさらに……」

「そうだね。瞬のお兄さんが『第三者』の可能性が上がったね」


「ああ……」

「それに、可能性が一番高い人物だからこそ何か事情を知っているだろう」


 龍紀はそこで言葉をきった。その言葉を空は続けた。


「でも、だからこそ心配になる……」

「心配はありがたい……けどな……。ところで……」


 そう言って俺は視線を向けた。


「?」

「?」


 二人は不思議そうに俺の視線を追うと……。


 そこには、「全く無関心です」という様に『カード』を見ている刹那の姿があった。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「………………」

「全く……瞬が真剣な話をしているのに……」

「……刹那は相変わらずマイペースだよな」


 察しが良いこともあるが刹那は時々『マイペース』な時がある。


 それは昔から知っているの話だが、どうあyら龍紀も空も最近理解し始めていた様だ。


「で? どうしたんだ? 刹那……」

「いや、このカードさ……」


 そう言って刹那は俺にカードの絵が書かれている面を見せた。


「これって……」

「…………蟹?」

「うん。蟹」


 刹那が見せたそこには、『蟹座』を意味する『キャンサー』と蟹の絵が書かれていた――――。

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