第4話
――この日迎えた事に関しては、俺は何も言わない。
「…………」
時間が経つのは当たり前の話であって、どうしたって止められないモノではあるが……そこでふと思った。
ここは『空の過去の世界』のはずだ。確かに『俺と出会った日』も時間が経過しているから一応は『過去』に含まれるのだろう。
ただ、俺からしてみると『まだ一年も経っていない出来事』を『過去』とされるのは……少し違和感を感じる。
それになぜ、わざわざ飛び飛びに彼女の過去を見せられているのか分からない。
人の過去は見たい人もいるかも知れないが、俺はあまり見たい人間ではない。ただ、どうせ見せるならこんな飛び飛びではなく……と思ってしまう。
しかし、実際のところ。見せられて分かったが、どうやらこの『過去』は『儀式』や『カード』に関わるタイミングを俺に見せているようだ。
「…………」
それに、ここに来て感じたのだが、どうやら俺は自分で好き勝手に移動する事が出来ないらしい。
言ってみれば、シミュレーションゲームでキャラクターと話をしている状態に似ている。
つまり、背景が動いていないのだ。
しかし、この場合で違うのは『俺』が含まれていない。つまり、ただキャラクター同士が話している光景を眺めているだけなのである。
人によっては「そんなのつまらない」となりそうだが、今の俺が置かれている状況では、そうも言っていられない。
それくらい俺は『星川空』について何も知らなかった。
だから今、見せられている『過去』は「どうして星川空がこの『儀式』をせざる負えなかったのか」というのを口頭の『説明』ではなく、実際に俺に見せている様に思えてならない。
「……」
ただ「どうしてこうなったのか」という『理由』の様な事は分かっても、彼女自身の感情までは分からず仕舞いだ。
とりあえず分かったのは、何度も話に聞いていたとおり……というか、自分の母親の……母さんの実家なのにも関わらず、根本的な部分が『腐っていた』というくらい。
他は、彼女が『孤児院で生活していた』という事も……含まれるか。
俺としては、彼女が本当に『何も知らなかった』のか『知っていた』のか……それが気になるところではある。
「……」
まぁ「何となく……もしかしたら知っているのかもな……」とは思っているのだが……。
しかし、本人が『それ』を口にしたわけでもない。だから、結局のところは俺の憶測を出なかった。
――そう、彼女が自分に暗示をかけるように言葉を呟きながら『あの場』に向かう姿を見るまでは。
最初、俺はさすがに『儀式』とまで言われるのだから、大掛かりな『送り出し』があるだろう……と思っていた。
しかし、実際のところは何もなく、むしろ『いつも通り』そのものだった。
ただ『いつも通り』は『いつも通り』でも、せめて『最後の確認』くらいはあるものだと思っていたが、それすらもない様だ。
最初は「もしかして、昨日の内に終わらせたのか?」と思っていたが……。
「…………」
不安な表情を覗かせる空の姿を見て、どうやら違う……と気がついた。それに、ここは『孤児院』である。
経営者の関係が『母方の実家』だとしても、そんな事はここにいる子供たちには関係ない。
ましてや、下手な噂が広まっては困る……といった判断から、こういう形になったのだろう。
ただ俺は、自分たちの保身など
それに、どうにもこの『儀式』と呼ばれるヤツは、似たような事は何度かしたことがあるようだが、ここまで大掛かりなモノは初めてらしい。
しかも、これをやる時は『同伴者』などがいてはいけないらしく、実質『空一人』でやらなければならない。
だから、空はここを出る時も不安そうな顔を除かせていたのだ。
「…………」
本当に、子供にこんな事をさせるくらいなら、大人たちでどうにかする事も出来ただろうに……と、俺は憤りが隠せなかった。
――とは言え、俺がいくら憤ろうと空には関係ないし、そもそも『儀式』は行われる。
「……ん?」
ここで、俺は一瞬考えた……が、今の現状を鑑みて「それは出来ないな」と判断した。
「はぁ」
せめて、俺の姿が見えなくても『あいつら』の様に自由に行動する事が出来たら……何か変わったのかも知れない……と、感じた。
そう、俺はこの時ここ最近あまり相手にしていない『霊』の事を考えたのだ。
「…………」
最近は、俺に気を遣ってくれてあるのか、余程の事がない限り来ない。
例えば「倒れている人がいる!」とか「雪に埋まって動けない人がいる」という感じだ。
それに、刹那も『見える人間』だから、大体はそっちに行っているのかも知れない。
「……」
ここ最近、刹那の目の下に『クマ』が出来ているのも、もしかして勉強ではなく……。
ただ、ここに来てからは『そいつら』を一度も見ていない。
「えと、確か……」
歩いている間も空は頻りに『儀式の順序』を復唱していた。どうやら、空は『口に出して覚えるタイプ』の様だ。
「……」
そして、そうこうしている内に空は俺と出会った『あの場』にたどり着き、いそいそと準備を始めたところで……。
「ぐっ!」
突然頭に走った『大激痛』と共に、俺の意識もここで強制的に打ち切られた――。
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