第9話
――追いかけ始めて数分後。
「…………」
俺は最初『内履き』のまま追いかけていたが、ものの数分で今は龍紀が俺と併走している。
「はぁはぁ」
「……大丈夫か?」
さすが『運動部』だ……と、感心してしまう。そりゃあ毎日走っている上に、サッカーとなれば、キーパーでもない限りずっと走っている。
「ああ」
ただ必死に走っている俺と併走し、息もほとんど切れていない上に、俺の心配までする余裕。
同じ高校生とは、とても思えない……というか、コレが『体育と登下校でしか運動をしない人間』が『運動部に所属し、ずっと走りっぱなしの運動をしている人間』と比べること自体間違っている。
しかし、ここまで明確に違いがあると……情けない。
「……俺の事はいいから、追いかけてくれ」
でも、そもそも空を飛んでいる烏を追いかける……なんて所詮無理な話……だと、実は思っていた。
しかし、そんな俺の考えとは裏腹に……。
烏はかなり低く飛んでいた。多分、思っていた以上に『
しかも、そのスピードもかなり遅い。
ただそれでも、俺では追いかけ始めた時のアドバンテージをなかなか詰める事は出来ていなかった。
「分かった。あれくらいのスピードで低空飛行なら、なんとか出来そうだ」
そう、俺では追いつけなくても龍紀なら追いつける。後は、龍紀に任せることにした……が、すぐに決着はついた。
「……っと」
なぜなら、龍紀が追いかけ始めてすぐに、烏が近くの木に止まったからだ。
「はぁ……はぁはぁ」
俺もなんとか龍紀に追いつき、烏と対峙した。
ちなみに、刹那は……実は、俺たちと別れて、龍紀の代わりに鍵を返しに行っていたらしい。
どうやら『烏があの杯を持っていた。つまり、あの杯はやはりカード』と思ったらしく『じゃあ、ここに戻ってくることはないだろうから、鍵は返しておこう』と判断したようだ。
ただ、この時の俺はそんな事。知るよしもなかったし、そもそもそこまで頭が回っておらず……それどころか、刹那がいなかった事すら気がついていなかった。
もちろん、この『烏』が本当は『普通の烏』で、ただ光り物に引き寄せられてこの『杯』を狙っていたかも知れないが……。
『……』
「……」
「……」
しかし、もしそうだったとしても『どうやってこの杯を閉まっていた窓から奪ったのか』それは分からない。
少年と話をしていた時は、周りの人たちは何も反応を示さなかったが、さっきの会話といい、現在といい。
『……なぜ、貴様らは私たちを追いかけ回す』
どうやら龍紀にも烏の姿は見えている上に、その声も鮮明に聞こえているようだった。
「…………」
「…………」
ただ烏の問いかけに、俺たちは無言のまま顔を見合わせたが……。
「いや、それは俺たちが言いたい」
『……はっ?』
「え?」
俺の発言に烏だけでなく、龍紀も俺の方を見ている。
「いや。なんで、逃げる? それに、俺が追いかけたのはあなたが『それ』を持っていたからだ」
『……っ』
そう言いながら俺が烏の持っている『
烏は、痛いところを突かれたのか、さっきとは打って変わって口を噤んで……いや『口』を噛みしめている様に聞こえた。
――人間であれば『唇』と言えたのだが、鳥類に『唇』はない。
「むしろ俺はなんであなたが『その
『…………』
そう、実は『カード同士が協力する』というのはこれが初めてではない。ただ、元は違う『由来』の『カード同士』のはずだ。
しかし、なぜか『カード同士』出会うと『協力する事』が多い……いや、むしろ『対立している事』がない。
俺は、それが純粋に不思議だったのだ。
『私の場合は……確実に自分が悪い。それは、貴様らも知っているだろう』
「……」
「……」
――知っている。それこそ『口は災いの元』という言葉を体現したかのような由来だ。
『しかし、こいつは違う。こいつは、ただ使われた道具に過ぎない。それなのに、星座になっている』
確かに『コップ座』は、使われた『道具』が星座になった。
「……それがどうしてこの『行動』に繋がるんですか?」
そう言ったのは、今までずっと黙っていた龍紀だった。
『……あのままあの場に置いておいて、悪いヤツらに持っていかれるのが我慢ならなかった』
「悪いヤツら?」
「ん? 待て、それはひょっとして俺の事?」
俺は、思わずそう尋ねた。なぜなら、俺以外で『カード』に関わっている人間がいないからだ。
『当初は、私はそう思っていた。しかし、貴様はその悪いヤツらとは関係がなさそうではある……と思うがな』
「……違う?」
「それってつまり……」
ふと思い浮かべたのは『母さんの実家の人間』の事である。
「……」
「……」
もしや、その人間の誰かも『カードを探し始めて』いるのだろうか。
そうなると、悠長にかまえているワケにはいかない。さらに急いで探さないといけなくなるのだが……。
「……」
しかし、俺はその時ふと『一人の人物』を思い浮かべた。
「なぁ、あんたが言っている『悪いヤツら』で、なおかつ『カードを探している人間』って、ひょっとして『黒髪で長髪の少女』じゃないか?」
「!」
龍紀は驚きの表情を俺に向けていたが、俺からしてみれば何も驚くような事はない。
なぜなら、星川空。彼女も『母さんの実家』の関係者である可能性は非常に高い。ただ彼女とは会えていないから、聞けもしないが……。
ただ、その方がしっくりくるだけだ。
『通常は人間個人に対してそこまで興味はない。だが、自分自身に関わりがあるのであれば、その限りではない……が、確かにそのような特徴だったな』
「……」
「……」
烏の言葉に、俺たちはまたも無言になった――。
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