第10話


『で、主の言うすれ違い……とはなんだ』


 俺たちの会話を完全に呆れた様子で見ていたレオンは、多分「このままでは埒が明かない」と思ったのだろう。


 夢に対しそう尋ねた。


「あっ、うん。実は、お兄さんお互い『言っていない事』があるんじゃないかって思って……」


「言っていない事?」

「うーん?」


「たっ、例えば『変な視線』とか……」

「え」


「例えば『話の食い違い』とか……」

「!!」


 俺たちは夢に言われて思わず驚いた。なぜなら夢は「なぜここまで知っているのだろうか……」と。


『それについては私が答えよう』

「え……」


 そう言って名乗りを上げたのは……なんと『レオン』だった。


『ここは……もう想像はついているとは思うが、夢の世界だ。そして、ここでは夢自身が見たいと思ったモノを見ることが出来る』


「!!」

「ふーん」


 レオンの言葉に俺と兄さんはお互い少し違うリアクションをした。


「つまり、夢は俺たちお互いの様子を『盗撮』していたようなものだった……と」

『撮影まではしていないが、のぞき見していたようなモノと言ってしまえばそこまでだな』


 今のレオンの言葉は「念のため……の訂正」というつもりだったのだろうが、『主』と呼んだ夢を擁護するつもりはサラサラなさそうだ。


「ほっ、本当なのか? 夢」

「ごっ、ごめんなさい……。でも、お兄さんたちがずっとすれ違ったままなのは嫌だったから」


「その気持ち自体は嬉しいんだけどねぇ」


 兄さんは苦笑いをしながらも、夢を責めるような事はしなかった。もしかすると、兄さんも兄さんで思うところがあったのかも知れない。


「で、夢はいつから僕たちを見えていたの?」

「え……」


 こういった事をサラッと聞ける当たり、さすが兄さんだと思う。俺には無理だ。


「えっと……実はここ、元々はこんな『川』はなかったの」

「川?」

「あぁ! コレか!」


 兄さんは若干興奮気味で俺たちの目の前に広がっている『川』を指した。


「でっ、でもこの『レオン』が突然現れてからは……」


「そういう事が出来るようになった……という訳か」

「……うん」


 多分、夢の言っている事に間違はないのだろう。


 それでいくと、俺が今まで思っていた『夢は自分の好きな世界に行ける』みたいなおとぎ話のような事は出来ないという証明にもなるのだが……そもそもその考え自体、飛躍しすぎている。


 しかし逆に今の話で行くと、やはりこの『レオン』が『星川空が探しているカード』の可能性がかなり高くなった。


 そもそも、神話で『獅子座』は俺が出会った『ヘラクレス』の「十二の難行」と結びついている。


 そして、その最初の試練がネメアの森に住む化け物の獅子の退治。


 しかし、この獅子は巨大な上に、その皮膚は鉄よりも固い。その為、獅子には通常の武器は通用しない。


 そこでヘラクレスは武器に頼らず素手で絞め殺すことで難行を達成し、この時のライオンが天に上げられ『獅子座』になった……とされている。


 何がどうしてそんな『獅子座』が亡くなったはずの夢を『主』とし、一緒にいるのか分からない。


 ……いずれにせよ、今回の一件は『何か理由』がありそうだ。


「というかさ、瞬はどうして僕に会いに来たの? 今までずっと疎遠だったじゃん」

「そっ、それは……手紙がきたからですよ」


 そう、根本的に俺が今ここにいるのは兄さんから『手紙』が来たからである。


「うーん、確かに手紙は出したけどさそれでわざわざ来る理由って、なんだろうって思っていたんだよ」

「それは……って」


 そこで俺は兄さんの言葉に引っ掛かりを覚えた。今確かに兄さんは「手紙は出した」と言った。


 もちろん、俺がここに来たのは刹那や空、龍紀の後押しを受けて兄さんと向き合うために来たようなモノだ。


 しかし、そうなったきっかけは『兄さんが送ってきた手紙に空が探しているカード』が入っていたからである。


「ん?」

「にっ、兄さん。もしかして、俺に送ってきた『手紙』って、何か入れていませんでしたか?」


「え……いっ、入れてないけど」

「え……」


 もし、兄さんが入れたのであれば、俺たちが予想した通りだと思った。しかし、もし違うのであれば……と確認のつもりで言った。


 たが、兄さんは俺の予想とは違い、否定した……いや、本当は薄々感じていたのかも知れない。


「どっ、どうしたのお兄さん」

「いっ、いや。実は、俺がもらった手紙には『一枚のカード』が入っていたんだ。でも、それが兄さんによるものじゃないとすれば……」


『どうやら、この時点で何者かの手が入っているようだな』


 そう、レオンの言う通りである。あえてその『カード』が何なのかは言わなかったが……この『カード』が大事なモノだという事は今ので伝わっただろう。


「…………」

「想お兄さんは本当に入れていないの?」


「えっ、うん。僕はただ手紙を書いて宗玄さんに渡しただけで、後は宗玄さんが出しておくからって言われて……そっか……って任せたけど」


「宗玄さん……ですか?」

「うっ、うん。でも、いつもは自分でちゃんと封筒に入れた状態で渡すんだけど、この時はやけに催促してきたからさ」


 兄さんは「いつもはそんな事ないのに」と首を傾げた。


「……」

『あからさまに怪しいな』

「うん」


 確かに、今の兄さんの話を聞いた限り、明らかに『宗玄さん』が怪しすぎる。


「…………」


 でも、仮にカードを送ってきた相手が宗玄さんだったとして、なぜ宗玄さんがそんな事をしたのかが分からない。


 そもそもなぜ、わざわざ俺をここに呼ぶ必要があったのかも……。


 それに、宗玄さんがあの『蟹座のカード』を俺に送ったとしたならば、つまり宗玄さんは俺がこのカードを探している事を知っている……かも知れない。


 そうだとして、もしかしたら、宗玄さんはこの『カード』について何か知っているかも知れない……など色々と、俺は頭の中で推察していたのだった。

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