第12話
「ヘラクレス座……」
『すっ、すみません。立ち聞きするつもりはなかったのですが』
そう言って現れた『ヘラクレス座』はかなり申し訳なさそうな表情を浮かべている。
『皆様もすみません』
「いいって、ね? 夢」
「はい」
兄さんの言葉に夢も笑顔で頷いた。
『それに……』
『む? 私も気にしてなどおらん。貴殿と一戦交えたのも、もう今や昔だ』
「…………」
そう、ヘラクレスと獅子はその昔、戦っている。そして、その戦いに敗れた獅子は『星座』になり、それが『獅子座』で伝承だ。
『しかし、この本は一体なんだ? その本が持ち出されてから主の兄が奇妙な視線を感じるようになったと言っていたが』
「元々は私が幼少期から読んでいたモノだけど、私も読めない部分があって……」
「俺も一度目を通させてもらったのですが、後半の部分は……」
「うーん、実は僕も……なんだよね」
「兄さんでも……ですか」
「うん」
兄さんは日本語だけでなく『英語』も出来る。しかも、アメリカ式の英語とイギリス式の英語の両方だ。
そんな兄さんも分からないとすると……コレはそれ以外の言語。もしくは、特殊な文字で書かれたモノなのかも知れない。
「……もしかしたら、僕たちはとんでもないことに巻き込まれているのかも知れないね」
「え」
「その可能性は否定できないよ。現にお兄さんの周りでは奇妙な事が多く起きているし」
俺は兄さんの言葉に驚いたが、夢はどこか納得したような口調でそう言った。
『それに、僕たちが発現した時期もちょうど本を持ち出した頃ですし』
『ああ』
「…………」
確かに二人の言うとおりである。
「まぁ、コレは今を生きている僕たちがどうにかしないといけない問題だね」
「そっ、それは……そうですが」
明らかに今、俺たちは『何か』に巻き込まれているのは確かだ。ただ、兄さんは『カード』については何も知らないはず……。
「瞬が言いたい事は分かるよ。でも、瞬も知っての通り僕は自分で調べたモノ自分で見たモノしか基本的に信じない。だからこそ悔やんでいる。全てはあの火事の一件を……母さんの実家についてあまり深く調べてこなかったことに」
「……」
「想お兄さん」
兄さんは多分、随分前から違和感を感じていたに違いない。しかし、その正体がなんなのか……見当が付かなかったのだろう。
「瞬……宗玄さんの件は僕に一任してくれないかな」
「え……」
「宗玄さんには今までたくさんお世話になっている。それに、実はもう大分見当はついている」
「…………」
そう言った兄さんの声は、今まで聞いたことがないくらい『低い』モノだ。多分、怒っているのだろう。
「……分かりました」
「ありがとう。それと、この本は瞬に渡すとして……」
「え、でもコレは……」
『大丈夫です。僕も……読めなかったので』
困惑する俺にヘラクレス座は苦笑いで答えた。
「それに多分、僕が思うにコレを読める人が瞬の周りにいるんじゃないかって思っているんだ」
「俺の……周りに?」
「うん、後、瞬は今まで通り過ごして」
「え?」
「いきなり生活態度が変わったら相手は『感づかれた』と思って逃げてしまうかも知れないからね」
確かに、俺が相手の立場だったとしても、そう思うはずだ。
「もし、何か分かったらまた『手紙』を送るよ」
「……分かりました」
俺がそう言うと、兄さんは手を差し出してきた。
「……?」
「握手、こうして普通に話せるようになるのに結構な時間がかかってしまったけど」
これから兄さんとは『協力体制』という形にはなる。しかし、今までとは明らかに違う。
「これからもよろしく、瞬」
「……ああ、よろしく兄さん」
そう言って俺は兄さんの手を握った。
「…………」
――随分、回り道にはなってしまった。しかも、それを取り持ってくれたのがすでに亡くなっているはずの『妹』だというのも不思議な話だ。
『さて、それでは私たちも帰るとするか……』
『そうですね』
「えっ、レオン……」
『悪い。主……私はずっとこの場にいられない』
「……そっか」
レオンの言葉に、夢は残念そうな表情になった。
「夢……」
「いいんだよ、瞬お兄さん。私は元々お兄さんたちが仲良くして欲しかっただけだから」
「なんだかんだで世話になっちゃったねぇ」
「感謝して? 想お兄さん」
「もちろん、感謝しているよ?」
「……感謝しているように見えませんが?」
「あはは!」
なんだかんだ俺たちの過去には色々あったが、最後の最後で俺たちは『笑顔』になる事が出来、ふと気がつくと……俺はベッドの上で目を覚ましていたのだった。
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