第6話


「え……っとぉ」


 ――正直、気まずい。


 最近、雨宮さんに推薦してもらって『生徒会長』になったばかりである。それに加え、部活動でも『部長』になった。


 そして、実は雨宮さんから……。


『何でも自分で抱えるな』


 生徒会の仕事の引き継ぎをしている途中、そう言われていたのだ。


「…………」


 そう言われていたにも関わらず……この有様である。


「その様子じゃ、どうしてこうなっているのか分かっている様だな」

「うっ……」


 冷たく……冷ややかな視線が痛い。どうやら雨宮さんは『全て』知っているようだ。


 ――そう、全て。


「はぁ、全く。お前はあの時から一切変わってないんだな」

「……返す言葉もありません」


 俺が一度、遅刻した時……雨宮さんは俺をかばってくれた。


 雨宮さんは『全て』知っていたのだ。俺の家庭の事情も、周囲の俺に対する視線も全て……。


「ったく、クラスメイトにすら心配されて」

「え……」


「まさか……知らなかったのか?」

「……」


 意外そうな顔で雨宮さんは最初見ていたが、すぐに「それだけ周りが見えていなかったんだな」という表情になった。

 でも、確かに同じクラスの天野瞬と宮ノ森刹那は最近何かと俺の様子を窺っていたような……。


「いくら見た目を変えようが、態度を変えようが中身は一切変わっていないんじゃ意味ないだろ」

「…………」


 ――本当に返す言葉もない。ただ俺は……あの時この『雨宮さん』に憧れた。


 でも、心のどこかでは「髪の色が明るいのも、この性格も俺自身なのに……」と思っていたのも事実だ。


「……」


 それを窮屈に思っていなかったかと聞かれると……嘘になる。その上、そんな自分を隠すように最近はワザと忙しくして目を背けていた。


「とにかく、クラスメイトのヤツらには自分から言えよ。それに……」


 なぜか雨宮さんはチラッと扉の方を見ている。


「あの、あの扉に何か……?」

「いや? でも、ちゃんと周りと協力しろよ。手助けを頼むのは決して『恥』じゃなからな」


「……はい」

「まぁ、最初は難しいかも知れないけどな」


 そう言って雨宮さんはニッと笑った――。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「はぁ……」

「ただの思い過ごしだった……」


 なぜか空は残念そうな表情……というか「つまらない」という表情を浮かべ、空を見上げている。


「…………」


 俺としては「面倒にならなくてよかったぁ」という気持ちの方が大きいのだが、空は違う様だ。


「ところで……その『カード』はなんだ?」

「コレは『小馬座』」


「へぇ『小馬座』か」


 分かった様なリアクションを取ったが、残念ながら初耳の星座である。


「それにしても……本当に何もしなくても簡単に手に入ったよな」

「今回のは……本人次第だったから」


「本人次第?」

「うん。この『カード』がついた人が……自分の弱さを受け入れられるか……というのが問題だったから」


 空は淡々とそう告げたが、正直空が言っているような簡単な話ではない様な気がしてならない。

 今回の件が一見簡単そうに見えたのは……小林が自分の弱さを受け入れる『強さ』があったからだろう。


 でも、人によってはそう簡単にはいかない。


「……」


 そう……俺の様に――。


「??」

「いや、なんでもない」


 不思議そうな表情で俺の方を見ている空に、そう言って俺は無言でもう一度空を見上げたのだった。

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