第15話


「……その女性はどこから来たとか分かるか?」


 この時点で「ひょっとして、俺は騙されていたのか?」という気持ちだったが、詳しい話を聞かずに決めつけるのも良くない。


「三階のところからだろう……という事は分かります。ですが、どうしてそこから来たのか……までは」

「分からない……か」


「すみません」

「いや、気にしなくていい。ただ、刹那。その女性が現れたのが三階なら……」


 あの話に出ていた『社長』などは関係ない様に聞こえる。


「うーん。話に出ていた『社長』は関係ない様に聞こえるけど、でもその三階のあの位置って、実はその社長がいる病室の非常階段なんだよね。それに、霊ならどこからでも現れる事が出来るし」

「それを言ったら本末転倒だろ」


 確かにその通りである。


「でもまぁ、確かに『カード関係』ではあるね。分かりやすい『星座』がちゃんとあるし」

「それは……そうだが」


「結局のところ。あの女性がこの子によって祓われたのかは分からない。でも、こうして『カード』が手に入るのなら、それでいいと俺は思うよ。元々、カードを集めるのは急務だったワケだし」

「俺はその場で『社長』とか『女性』の話は知らないが、もしまた何かあれば、その人は現れるんじゃないか?」


 龍紀は腕組みをしながら、尋ねた。


「……そうだな」


 でも、確かにそうである。


 もし、用があれば来る。なければ来ない。ただ、それだけの事だ。元々『来るもの拒まず、去るもの追わず』だったはずなのに、どうやら俺は、知らない内に執着していたらしい。


「まぁ、久しぶりに霊が来たからはりきっちゃったワケだ」

「語弊のある言い方は止めろ」


「しかし、その人。もし、由来の神話通りなら、正義を人に語っておきながら、自分がその『正義』の名の元に龍紀を襲った……って事になるね」

「まぁ、迷惑極まりない話ではあるが……」


 元はと言えば、こんな事を始めた人間が悪い。


「カードを集める事を止めさせたいが為にしても、全て集めなければ終わらない……そうでしたね」

「ん? ああ、宗玄さんから聞いたのか」


「彼女が消える前、正気に戻ったのか謝罪と『自分が正しいと思うのなら、時には喧嘩をするのも人の為』と言っていました」


 千鶴さんは「私にはイマイチ意味が分かりませんでしたが、瞬さんには伝えておこうかと……」とさらに付け加えた。


 どうやら、やはりあの『女性』は『天秤座』に関係のある『女神』だったようだ。


 悪霊になり、正気を失いそうになりつつも人の心配をし、最後には俺を案じて『言葉』を遺してくれた。


「結局、あの女神様は人間が好きで心配だったワケだ」

「……だな」


 その後で聞いた話によると、その女神から聞いていた社長なのだが、実はあの騒ぎが起きていた時。


 手術を受けていたらしく、一時は生死の境を彷徨っていたらしいが、無事意識を取り戻し、昔のやり方に戻したらしい。


 刹那曰く、なんでも『脳に関するモノ』で性格が突然変わってしまったのはそのせいだろうとの事。


 まぁ……何はともあれ、良かった良かった。


「……」


 ただ、俺にはやらなけばいけない……会わなくてはいけない『相手』がいる。喧嘩をするにしてもその『相手』がいなけば、意味がない。


「だから……」


 会いに来てくれないのであれば、自分から行くべきだろう。それこそ『いつか』なんて、先延ばしにするのではなく……。


「……」


 俺は、目の前にそびえ立つ『屋敷』を見上げた。

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