第16話
「……え」
龍紀は今、目の前で起きた事が分からなかった。
とりあえず分かるのは、龍紀の目の前にある『車』に乗っているであろう人が、龍紀の少し前にいた千鶴を蹴飛ばした……という事だ。
そして、蹴飛ばされた千鶴は設置されていたガードレールを乗り越え、叫び声もなく、姿を消していた。
「…………」
車のドアは開いたままだ。
しかし、この時の龍紀は女子をいきなり蹴飛ばしたという『怒り』よりも、ついさっきまで会話をしていた人間が突然姿を消したという『恐怖』の方が勝っていた。
それこそ『足が
「……」
龍紀自身、こんな経験は初めてだった。
生徒会……いや、部活動に入る前は『いきなり』ケンカを売られたり殴りかかられたり、言い寄られたり……なんて事はあった。
しかし、それは学生程度の
「……ったく、ずっとドアを開けっぱなしにしとけば勝手に近づいてくるんじゃなかったのかよ」
無言のまま立ち尽くしている龍紀に、ドアを開けっ放しにしていた車から『男性』が下りてきた。
黒髪で、体格はかなりよく、筋肉質かつ身長もかなり高そうだ。しかも、髪は三つ編みを一つにしてまとめている。
パッと見た感じは「なんだこの人」と思わせるが、意外にこの髪型がこの人にしっくりときている。
口調から察するに、この人自体はかなりサッパリしていると思う。
それが今の「――じゃなかったのかよ」という言葉だ。誰かに言われなければこんな言い方をしないだろう。
ただ、一言だけ言っていいのであれば、さすがに開けっ放しの車に乗る……という事を普通の人がするとは思えない。
一体、こんな事を提案したのは誰なのだろうか。いや、そもそもの話。コレを鵜呑みにする方もする方だとは思うが……。
「はぁ、まぁいい。とりあえず、この直立不動のこいつを車に乗せてしまえば……」
「……!!」
そう言って伸びてきた手に気付きながらも、龍紀は動かない。その姿は傍から見れば、怯えている人間に見えたかも知れない。
しかし、当然そんな事はない。伸びてきた腕ではなく、相手の体が少し傾いたのを見計らってカウンターをお見舞いする気まんまんだった。
もう少し……というタイミングで、相手の男はなぜか笑った。
龍紀はその表情に気がつき「やばいっ」と思い、後ろに引いた瞬間。相手の男性は、拳を握った。
「!!」
ただ、その男性の拳が龍紀に届くことはなかった。
なぜなら、ガードレールを越え、姿を消した千鶴がさっきのお返しとばかりに男性を思いっきり殴り飛ばしたからである。
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