19 学生食堂
「それじゃ、レティシア。そろそろ終わりにしようか?」
「はい、シオンさん」
返事をすると、シオンさんが笑みを浮かべた。
「片付けは俺がやっておくからレティシアはもう帰っていいよ」
「いいえ、私も手伝います」
折角久しぶりにシオンさんに会えたのに……
もう少し一緒にいたかったので、手伝いを申し出ることにした。
「え? でもいいのかい?」
「2人で片付けたほうが早く終わりますから」
「そう? それならお言葉に甘えようかな」
「はい、シオンさん」
そして私たちは2人で一緒に用具の片付けを始めた――
****
「よし、今度こそ終わりだな」
全ての用具を物置にしまうと、シオンさんが声をかけてきた。
「はい、終わりましたね」
「もうすぐ12時になるのか……」
シオンさんが自分の腕時計を見る。
「……はい……」
もう少しだけでも一緒にいられれば……そう思うものの、妙にシオンさんを意識してしまって口にすることができない。
すると――
「レティシア、この後何か用事でもあるのかな?」
「え? いいえ。特に用事というほどの物はありません」
本当はヘレンさんのお店に寄るつもりだったけれども、シオンさんの次の言葉を期待して首を振った。
「それじゃ、食事をして帰らないかい? 実は長期休暇の間、閉めていた学生食堂が今日から再開するんだよ。新入生歓迎の準備をするために活動が始まるサークルもあるしね。学生食堂に行けば、少しは大学の雰囲気も分かるかもしれないし」
それはとても魅力的な誘いだった。けれど……。
「あの、それはとても嬉しいお誘いですけど……いいんですか? 私はまだ部外者になるのですが……」
学食で、身分証明書の提示を求められたらどうしよう。するとシオンさんが笑った。
「そのことなら大丈夫。この大学の学生食堂はお金さえ払えば誰でも利用できることになっているから」
「そうなのですか?」
「うん、近隣住民の人も学生に混じって食べている姿がよく見られるよ。そんなことを言っていたら、レティシアにハーブ菜園の手伝いを頼めなかったよ」
「言われてみればそうですね」
確かに私は部外者なのに、もうすでにこの大学に出入りしていた。自分の立場を意識していなかった。
「だから気にすることはないよ。それじゃ、俺がお薦めの学生食堂へ案内するよ。行こう、レティシア」
「はい、シオンさん」
こうして私はシオンさんに連れられて、学生食堂へ行くことになった。
****
連れてきてもらった学生食堂は美しく整えられた芝生の庭が見渡せる場所に建てられていた。大きな窓からはアネモネ島の美しい青空がよく見える。
「とても広くて明るい食堂ですね。それに中も綺麗ですし」
私は隣に立つシオンさんに声をかけた。
「そうだろう? 大学にはいくつか学生食堂があるけれども、ここが一番人気のある店なんだ。いつもは混雑しているけど、まだ大学が始まっていないから人もまばらだな」
確かに人の数は僅かだった。それによく見ると、年配の夫婦と思しき人達もいる。
「それじゃ、料理を注文に行こうか?」
「はい」
そして私はレディースセット、シオンさんは本日のお薦めセットを注文した。
**
「どうだい? 美味しいかい?」
窓際の席で向かい合わせに座るシオンさんが尋ねてきた。
「はい、とっても美味しいです。やっぱり学生食堂でもシーフード料理が出るのですね?」
シーフードパスタをクルクルとフォークに巻き付けながら、私は返事をした。
「レティシアはシーフード料理が好きなんだね」
シオンさんはクラブサンドを口にしている。そのとき、不意に店の中に賑やか声が響き渡った。
思わず顔を上げて声の方向を見ると、5〜6人の女性たちが楽しそうに話をしている姿が目に飛び込んできた。
「あ……」
その中の1人の女性にどこか見覚えがある。
「どうかしたのか? レティシア」
シオンさんも声の方向に視線をやり……ポツリと言った。
「あれは……カサンドラだな」
そうだ、思い出した。
あの女性はレオナルドの同級生のカサンドラさんだ――
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