5 私とシオンさんとレオナルド
私はシオンさんに大学の正門前に案内された。
「ここで待っていてくれるかな? 今俺の馬車を持ってくるように声をかけてくるから」
シオンさんはこの島の人ではない。それなのに自分専用の馬車があるなんて……。
少しの疑問を持ちつつ、返事をした。
「はい。分かりました」
「それじゃ、今……あれ? もしかしてレオナルド……?」
シオンさんが怪訝そうに校舎を見る。
「え?」
私もシオンさんの視線の先を見ると、確かにレオナルドの姿が見えた。彼は駆け足でこちらに向かっている。
「レティ!」
レオナルドは大きく手を振ると、息を切らせながら私たちの前にやってきた。
「わ、悪かった……レティ。それにシオンも。2人とも、一緒だったんだな」
ちらりとシオンさんを見るレオナルド。
「そうなんだ。レティシアがハーブ菜園に来たんだよ」
「レティが?」
レオナルドは私に視線を移す。
「はい、今日から私もこちらの大学に通うのでシオンさんにご挨拶をしておこうと思って」
嘘だ。
本当はシオンさんに会いたかったからなのに……気恥ずかしくて、本当のことは言えなかった。
「レティと一緒に帰る約束が出来なかったから、大学内を捜し回っていたのだが……まさか2人が一緒にいるとは思わなかった」
「レティシアが辻馬車を拾って帰ると言ったから、俺の馬車で送る話をしていたところなんだ」
シオンさんがレオナルドに説明する。
「そうだったのか? それじゃ、帰りはシオンと……?」
レオナルドの表情が何故か少し曇る。
「いや、でもレオナルドは初めからレティシアと帰るつもりで、今まで捜し回っていたんだろう? だったら俺の出る幕じゃないな。と言うわけだから……レティシア」
シオンさんが私を見る。
「はい」
「今日はレオナルドと一緒に帰りなよ。俺はまだ大学に残ってやることがあるから」
「! そうだったのですね? 申し訳ございませんでした。御用があったのに、送って下さろうとしていたなんて」
「いや、いいんだよ。最初に誘ったのはこっちの方だから」
シオンさんは笑顔を見せると、次にレオナルドの肩を叩いた。
「それじゃ、またな」
「あ、ああ」
そしてシオンさんは背を向けると去っていった。
シオンさん……。
遠ざかるシオンさんの背中を見つめていると、レオナルドが声をかけてきた。
「レティ……」
「はい」
「帰ろうか? お祖父様とお婆様が待っている。今夜はレティの入学祝いをしたいと言ってるんだ」
「そうなのですか?」
「ああ、レティの好きな魚介の料理を出すと言っていたぞ? それにとっておきのワインも用意してあると話していた」
「本当ですか? それはとっても楽しみです」
祖父母が私の為に、そんな準備までしてくれていたなんて。
「俺も楽しみだよ」
笑顔を向けるレオナルド。
「レオナルド様も魚介料理がお好きですからね」
「勿論だ。何しろこの島は魚介料理が一番美味しいからな。それじゃ、帰ろうか?
正門脇に迎えの馬車を待たせてあるんだ」
「はい、レオナルド様」
私は、まだレオナルドの胸の内を何も知らなかった。
そして……自分の運命が大きく変わる日が近づいていることも――
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