13話 目撃
――翌日
この日、私は自転車に乗って大学へとやってきた。
大学の敷地内を自転車をこいでいると、学生たちが物珍しそうに見つめている。
「何処に自転車を停めようかしら……」
自転車をこぎながら周囲を見渡す。
大学には専用の自転車置き場が無い。入学して直ぐに、私は学務課で自転車置き場のことを事前に尋ねていた。
すると専用の自転車置き場は無いので邪魔にならない場所に停めておけば大丈夫ですと許可を貰っていたのだ。
「あ、あそこにしましょう」
校舎の近くに、一本の巨木があった。その脇に自転車を停めると、私は教室へ向かった――
****
「レティシア! 一体、昨日はどうして大学に来なかったの? 何かあったんじゃないかと思って私、ものすごく心配していたのよ!?」
教室に着くと、早々にノエルが駆けつけてきた。
「ごめんなさい。心配かけてしまったわよね?」
「ええ、それは勿論当然よ」
私達は席に着くと、早速ノエルが尋ねてきた。
「レティシア、大学を休んだ理由は……やっぱりシオンという人のことが原因なの?」
「いいえ、そうじゃないの。本当は大学へ行こうとしていたのよ。だけど……お兄様が迎えに来てくれて、今日は大学をサボろうって言ってきたの。それで出かけたのよ」
「え? そうだったの?」
私の話にノエルが目を丸くする。
「ええ……私を元気づけてくれようとしていたの」
「それで、2人で大学をサボってお出かけしたのね? 何処へ行ったの?」
「水族館に行ってきたわ」
「え? 水族館に!?」
何故か驚くノエル。
「そうだけど……それがどうかしたの?」
「ううん、ただ2人で学校をサボって水族館へ行くなんて、まるで恋人同士のデートのように思えちゃったから……」
「恋人同士……」
会話だけでも、やはりデートのように捉えられてしまうのだろうか?
「あ、今の気に触ったらごめんなさい。そうよね、レティシアとお兄さんはそれだけ、とても仲の良い兄妹の関係ってことよね。変な言い方をして、悪かったわ」
「い、いいのよ。全然気にしていないから謝らないで」
もし、私とレオナルドが赤の他人だということを知ったら……ノエルはどう思うのだろう。
私はノエルを親友だと思っている。その彼女に嘘をつき続けていいのだろうか?
むしろ、罪悪感のほうがこみ上げてきた。
「あの……ね……、ノエル」
その時、1時限目の教授が教室に現れた。
「何? レティシア。どうかしたの?」
「う、ううん。後で、昨日休んだ分のノートを見せてもらおうかと思って」
「何だ、そんなことだったのね? いいわよ、お昼休みにでもノートを貸してあげるわ」
「ありがとう、ノエル」
そうだ。
別に今、ノエルに私とレオナルドが本当の兄妹では無いと告げる必要はない。いつでも話そうと思えば出来るのだから。
けれど……説明することもなく、私とレオナルドが兄妹ではないことが、意外な形で知られることとなってしまう――
****
――昼休み
私とノエルは学生食堂に来ていた。
「レティシア! 向こうの席が空いていたわ!」
「本当?」
混雑する食堂の中、食事の乗ったトレーを手にしたノエルが空いている席を見つけた。
2人で着席すると、ノエルが胸をなでおろす。
「あぁ、良かったわ……無事に席を確保出来て」
「ええ、そうね。ノエルのお陰だわ、ありがとう」
「いいのよ、お礼なんて。たまたま見つけたんだもの。さて、それじゃお昼を頂きましょ?」
「ええ。そうね」
****
「それでね、そこの水族館にはペンギンもいたのよ」
「まぁ、ペンギンを見たのね? 私はまだ図鑑の絵でしか見たことがないわ」
まだ水族館へ行ったことのないノエルは食後の紅茶を飲みながら、興味津々で私の話を聞いている。
「だったら、今度一緒に行ってみない? 私、もう一度水族館に……」
そこまで言いかけ……私はある光景を目にし、目を見開いた。
「どうかしたの? レティシア」
ノエルが尋ねてくるも、返事をすることが出来なかった。
「そ、そんな……どうして……?」
私の目には、カサンドラさんが見知らぬ男性と手を繋いで学生食堂を歩いている姿が写っていた――
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