4-18 断罪、そして明かされる真実 1
束ねられたカルテはかなりの厚みがあり、紐でくくられていた。
「一番古い記録は……十八年前になりますね。日付を見ると丁度レティシア様を出産された頃からになります」
チャールズさんは一番上に束ねられているカルテの表紙を見ている。
「チャールズ。そのカルテを彼に渡してくれ」
父がシオンさんに視線を向ける。
「はい、旦那様」
すると、ルーカス先生の顔色が変わる。
「伯爵! 何を仰るのですか!? こ、このような赤の他人にルクレチア様のカルテを見せるつもりなのですか!」
「そうだ。何か問題でもあるのか? それとも見られて何か不都合なことでもあると言うのか?」
父は厳しい眼差しで先生を見る。
「問題……問題ならあります! いくらルクレチア様がお亡くなりになられたからと言って、見知らぬ相手に個人情報を明かすなど……!」
「夫の私が良いと言ってるのだ。そこまで隠そうとするのはやましいことがあるという証拠ではないのか?」
「く……」
ルーカス先生はテーブルの上で拳を握りしめ、肩を震わせている。
「全く、大人のくせに往生際が悪いわね」
フィオナがルーカス先生に軽蔑の目を向けると、アンリ氏が叱責した。
「フィオナ! この話は今のお前には関係ない。黙っていろ!」
「だから父親面しないでって言ってるでしょう!?」
激しく睨み合うフィオナとアンリ氏。一方のイメルダ夫人は平然と構えている。
……一体何を考えているのだろう? 何故、その様に堂々とした態度を取っていられるのか、私は不思議でならなかった。
「どうぞ、ルーカス医師が記録したルクレチア様のカルテです」
チャールズさんはシオンさんの側に行くと、恭しく束ねられたカルテを手渡した。
「ありがとうございます」
ニコリと笑みをうかべるシオンさんに、チャールズさんは会釈をする。
「く……!」
ルーカス先生は観念したのか、俯いている。
「では拝見致しますね」
「ええ、お願いします」
シオンさんの言葉に頷く父。そしてシオンさんは紐を解くと、ついに母のカルテに目を通し始めた。
「……なるほど、最初の頃はルクレチア様の症状に違和感を感じ……色々ご本人とお話をされていたようですね」
チラリとシオンさんがルーカス先生を見る。
「と、当然です……仮にも私は……医者なのですから……」
ルーカス先生の声は低かった。
「……お茶の時間の後は体調を崩されているようだと記載がありますね。しかも、どの使用人がお茶を淹れたときかも書かれている。……その人物は……ああ、ちゃんと証拠が残されているじゃないですか。イメルダさん」
シオンさんは突然夫人に声をかけた。
「な、何よ! 私は何もしていないわよ!」
「ええ、そうです。ここに書かれている人物は貴女ではない。ゴードンと書かれていますよ」
シオンさんはテーブルの上に広げたカルテを置くと、指さした。
「なるほど、たしかに書いてあるな」
隣に座るレオナルドが頷く。
「やはり、先生。あなたは疑っていたわけじゃないですか? どの人物がルクレチア様に何か怪しげな物を与えているのではないかと?」
「……」
もはやルーカス先生は口を固く閉ざし、一言も話をしようとはしない。
「ゴードンという人物は誰かに頼まれて、このような真似をしたのですかね?」
レオナルドが思わせぶりな口調でイメルダ夫人を見る。
「イメルダ、お前がまさか……やらせたのか?」
父の声には怒りが含まれていた。
「はぁ!? 何言ってるのよ。冗談じゃないわ! 知らないわよ! そんなのは勝手にあいつがやったことでしょう!? 私は何も関係ないわよ! 大体ねぇ……あの男は、ずっと私に言ってたのよ? あの女は子供を産んで心を病んでしまったって! そもそも私はあの男とは血の繋がりなんか無いんだから! 実の親でもない男が犯した罪なんて、私には関係ないわよ!」
イメルダ夫人の言葉に、私を含め……全員が驚いたのは言うまでも無かった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます