8 夜の散歩
「あ、あの……」
咄嗟に言葉が思いつかない。
「やはり、何かあったな? 今すぐ、祖父母のところに行って尋ねてくる。まだダイニングルームにいるのか?」
「!」
祖父母に尋ねる……? それだけは困る!
「あ、あのレオナルド様!」
「え?」
気づけば、私はレオナルドの右手を両手で握りしめていた。
「レティ……?」
怪訝そうに見つめるレオナルド。
「ふ、2人で庭に出てみませんか?」
咄嗟に言葉が飛び出していた。
「庭に出る?」
「はい、今夜はとても月が綺麗です。だからレオナルド様と一緒に夜空を見たくて。……いいですよね?」
私はすがるような目つきでレオナルドを見つめた。
「……そうだな。確かに今夜は満月だし……よし、行こうか?」
「はい」
そして、急遽私とレオナルドは夜の庭を散歩することになった。
****
「美しい夜空ですね。レオナルド様」
「そうだな。星も沢山見える。まるで手が届きそうだ」
2人で芝生を歩いていると、小さな丸い噴水が見えてきた。
噴水はガス灯で照らされ、噴き上げる水が光に反射してキラキラと輝いている。
「夜の噴水って、とても綺麗ですね」
「ああ、本当に……綺麗だ」
隣を歩くレオナルドを見上げ……ハッとなった。何故なら、とても優しげな瞳で私を見つめていたからだ。
その瞳は……何処かで見たことがある。そう、あれは……。
「……イザーク……」
気付くと、ポツリと口の中で小さく呟いていた。
「え? 今、何か言ったか?」
レオナルドが足を止めて一瞬驚きの表情を浮かべる。どうやら彼の耳には言葉がよく届いていなかったようだ。
「い、いえ。ただ、少しヴィオラとイザークのことを思い出しただけです。2人も今日から大学生になったので」
「そうだったのか? ヴィオラもイザークも今日から大学に通い始めたのか。2人は元気にしているのか?」
「ヴィオラからは時々手紙のやりとりをしていますけれど、元気にしていました。イザークのことは……良く分かりませんけど、多分変わり無いのではありませんか?」
セブランのことはレオナルドには言わないでおこう。多分、彼の話をしてもあまり良い気分にはならないだろうから。
そのとき――
「キャッ!」
噴水の水が風に飛ばされ、身体にかかってしまった。
「レティ! 大丈夫か?」
慌てた様子で私に声をかけてくるレオナルド。
「はい、大丈夫です。少しだけ腕が濡れてしまっただけですから」
するとレオナルドは自分が着ていたジャケットを無言で脱ぐと、私の肩にかけてきた。
「え? これくらい大丈夫ですよ?」
「いや。風邪を引くといけない。夜風も冷たくなってきたことだし……そろそろ部屋に戻ろう」
「そうですね。分かりました」
こうして私たちは屋敷に戻ることになった。
**
「レティ、明日は大学が終わったらどうするんだ? ここへ戻ってくるのか?」
歩きながらレオナルドが尋ねてきた。
「いえ、自分の家に戻ります。あまり長く不在にしているわけにもいきませんので」
祖父母からはレオナルドとの婚約の剣はすぐに返事をしなくてよいと言われている。
それでも屋敷に残るのは、やはり気まずかった。
「でも、週末はここに戻ってくれるよな? 祖父母はレティがこの屋敷で過ごすことを楽しみにしているんだ。……勿論、俺も含めて」
じっと私を見つめてくるレオナルド。
そうだ、彼には気付かれてはならない。今ままでと変わらない関係を続ける為にも……。
「え、ええ。そうですね。分かりました」
そこで笑みを浮かべて返事をした。
このときのレオナルドの気持ちを察することもなく――
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