7 祖父母の提案

「あの、お祖父様。け、結婚て……私とレオナルド様がですか?」


あまりにも突然の話に頭が一瞬真っ白になる。


「うむ、そうだ。レオナルドとレティはお似合いだと思うのだがな」


「そ、それは……」


シオンさんの姿が私の脳裏に浮かぶ。どうして、こんなときに……?


「どうしたのだ? レティ?」


私の様子がおかしなことに気づいたのか、お祖父様が怪訝そうに首を傾げる。


「すみません……あまりにも、その……突然の話だったので驚いていしまって……」


「そうなのか? それほど驚くことだったのか?」


「ほら、あなた。やはり性急過ぎたのですよ。いきなり結婚なんて言い出すから……大体レティは今日大学生になったばかりなのに」


お祖母様がお祖父様を嗜める。


「だが、ルクレチアだって……この頃から既にお見合いを初めていたぞ? ……もっとも、最終的にはあんな男と……あ、すまん! レティ。お前の前ですべき話では無かったな」


「いえ、大丈夫ですが……」


慌てたようにお祖父様が謝ってくるが、私はもうそれどころではなかった。


「レティ、いきなりで驚いたかもしれないけれど……私たちは本当にあなたとレオナルドはとてもお似合いだと思っているのよ? 2人とも戸籍上では私たちの養子だけれども、あなたたちは血縁関係は全く無いのだから」


「レティとレオナルドが一緒になってくれれば、グレンジャー家も安泰。私も安心して、この世をされるのだがな……」


お祖父様の言葉に、嫌な予感がした。


「お祖父様……まさか何処かお身体の具合でも悪いのですか? ご病気でもされているのですか?」


自分の声が震えてしまう。


「いや? 今のは物の例えだ。何処も悪いところは無い。主治医も、これほど健康な老人は珍しいと言っておるくらいだからな」


「そうですか……良かった……」


安堵のため息をつくと、祖母が再び窘めた。


「もう、あなたったら。いい加減にしてください。レティを不安にさせてどうするんです?」


「あ……すまん、そんなつもりは無かったのだ。だが心配してくれてありがとう。レティ」


祖父が笑顔を向けてくる。


「当然です。お祖父様もお祖母様も私にとっては大切な方ですから」


祖父母に何かあったらと考えるだけで胸が苦しくなってくる。


「それで、先程の話の続きだが……」


「あなた。およしになって。いくらなんでも、いきなり結婚なんてレティの気持ちを蔑ろにし過ぎです」


祖父が口に仕掛けた言葉を祖母が静止する。


「お祖母様……」


ホッと仕掛けた時、祖母の口から思いがけない言葉が飛び出す。


「とりあえず、まずは婚約というのはどうかしら?」


「え!? こ、婚約ですか!?」


どうしても、祖父母は私とレオナルドを一緒にさせたいようだ。


「ええ、そうよ、婚約。……どうかしら?」


「でも……肝心のレオナルド様の気持ちはどうなのです?」


レオナルドが私との結婚を望んでいるだろうか?


「レオナルドにはまだ聞いてはいないけれど、きっと大丈夫よ」


「ああ、そうだ。何も問題はないだろう」


大丈夫? 問題はない? どうしてそう思えるのだろう?

だけど……。


「あ、あの……あまりにも突然の話だったので、今はまだ……その、何も考えられなくて……レオナルド様との結婚の話も。それに婚約についても……」


俯いて返事をする。


「そうだったな。確かに突然過ぎたかもしれん……すまん、悪かった。レティ」


「ごめんなさいね? レティ。でも、レオナルドとの決して婚約は悪い話では無いと思うの。だって、レオナルドは本当に好青年だから」


祖父母が交互に謝ってきた。


「はい、確かにレオナルド様は素敵な方です。私には勿体ないくらいに。あの、今日は色々あって何だか疲れてしまったので……部屋で休ませて頂いてもよろしいでしょうか?」


キリキリと痛む胸を押さえながら、返事をする。


「あ、ああ。そうだな。そうするといい」


「ごめんなさいね。レティ。すぐに返事を聞かせてとは言わないわ。けれど、レオナルドとの婚約の話……前向きに考えておいてもらえないかしら?」


祖母が尋ねてくる。


「はい、そうですね。……考えてみることにします。それでは失礼いたします」


立ち上がって、挨拶すると私は逃げるようにその場を後にした。



――パタン


ダイニングルームを出て、扉を閉じるとため息が漏れる。


「……はぁ……」


どうして、こんなにもレオナルドとの結婚や婚約に乗り気になれないのだろう?

お祖父様の言う通り、グレンジャー家にとっては最善の話なのかもしれないけれど……。


「部屋に戻りましょう……」


重い足取りで部屋に向かって廊下を歩いていると、前方からレオナルドがやってきた。


「!」


思わず足が止まってしまう。


「ん? レティ? 今から部屋に戻るところだったのか?」


何も知らないレオナルドがにこやかに声をかけてくる。


「は、はい。……そうです……」


駄目だ、どうしても先程の話のせいでレオナルドを意識してしまう。


「どうしたんだ? レティ。何だか浮かない顔をしているじゃないか。それに元気も無いようだし」


「い、いえ。何もありません」


「その顔は何もないって様子じゃないぞ? 祖父母と何かあったんじゃないのか?」


レオナルドが真剣な目で私を見つめてきた――

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