20 様子がおかしい人たち
翌朝――
七時になったので、私はヴィオラがいる部屋の扉をノックした。
「ヴィオラ、おはよう。起きているかしら?」
程なくして、部屋の扉が開かれてヴィオラが姿を現した。
「あ……おはよう、レティ」
「ど、どうしたの? ヴィオラ。目の下にクマが出来てるわよ?」
いつも健康的なヴィオラだったはずなのに、今朝に限って目の下にクマを作っている。
「え? あ……う、うん。昨夜はちょっと眠れなくて……寝る前に見た星空と、今日は皆で『アネモネ』島の観光に行くのでしょう? だから興奮してあまり良く眠れなかったのよ」
そう言ってヴィオラは笑った。
「そうなの……? それで体調のほうは大丈夫なの? もし調子が悪いなら今日の観光はとりやめにしてもらってもいいのよ?」
「何言ってるの、大丈夫よ。こんなの朝食を食べればすぐに回復するから」
「ならいいけど……それじゃ、ヴィオラ。ダイニングルームに行きましょう?」
「ええ、行きましょう。レティ」
そして私達は連れだってダイニングルームへ向かって歩き始めるとヴィオラが声を掛けてきた。
「あの……ね。レティ。昨夜のことだけど……」
「え? 昨夜のこと?」
一体何のことだろう?
「イザークと何か話……した?」
「話? ええ、したわ」
「ど、どんな話をしたのかしら……? 差し支えなければ、その……教えて貰いたいのだけど……」
ためらいがちに尋ねてくるヴィオラは何だかいつものハキハキした彼女らしくない。
「ええ、別に構わないよ。でも大した話はしていないわ。まず、卒業式の日にいなくなってしまったことを謝ったわ。後は、養子にならないか勧められたの」
「え? 養子に……? それじゃ、やっぱりずっとアネモネ島で暮らすということよね……? お祖父様達と、そして……レオナルド様と一緒に……」
「ええ、そういうことになるわ」
ヴィオラの様子が何処かおかしい。
何故レオナルドの名前がここででてきたのだろう?
もしかすると、ヴィオラは彼に気があるのではないだろうか?
確かにレオナルドは素敵な人だし、今思えば馬車の中で二人は親密に話していたようにも感じる。
だとしたら、やはりヴィオラとイザークはお付き合いしていなかったのかもしれない。
考えてみれば昨夜、イザークにヴィオラと交際しているのか尋ねたのに彼は肯定も否定もしていなかったのだから。
「それにしても楽しみだわ。レオナルド様はどんな場所へ案内してくれるのかしら?今からワクワクするわ。そう思わない? レティ」
「そうね、私も楽しみだわ」
複雑な気持ちを抱えつつ、ヴィオラと会話しながらダイニングルームを目指した――
**
その日の朝食の席は少しだけ違和感があった。
ヴィオラはイザークとレオナルドの様子をチラチラ見ているような気がするし、イザークは私と視線が合うと、何故か気まずそうにそらせてしまう。
普段と何ら変わりなく見えるのは祖父母とレオナルドだけだった。
「ところでレオナルド。今日は皆を連れて『アネモネ』島の観光案内をしてあげるのだろう?」
食後のコーヒーを皆んで飲んでいると祖父がレオナルドに声を掛けてきた。
「はい、そうです」
「皆、楽しんでくるのよ?」
祖父母が私達に笑顔を向ける。
「「「はい」」」
私達は声を揃えて返事をした――
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