21 エントランスに響き渡る声
「どう? レティ。このワンピース似合っているかしら?」
私の部屋で着替えを終えたヴィオラが鏡の前でくるりと一回転した。
彼女が着ているのはノースリーブで膝下丈の真っ白なワンピースにあちこちに赤い大きな花が描かれている。
「ええ、とても素敵。似合っているわ」
あまりヴィオラの私服姿を見たことが無かった私は手を叩いて笑みを浮かべた。
そのワンピースドレスは本当にヴィオラに良く似合っていた。ストロベリーブロンドの彼女の髪に真っ白なワンピースは良く映える。
でも普段活動的な彼女がこんなに女性らしいドレスを着るとは夢にも思わなかった。
もしかすると、レオナルドのことを意識してなのだろうか?
「あ、ありがとう。レティもその服……とても良く似合っているわ。すみれ色のワンピース、綺麗だわ」
「ありがとう。このワンピース、実はお母様が私くらいのときに着ていたワンピースなの。おばあ様が大切に取っておいてくれて、プレゼントしてくれたのよ」
白い襟に丸く膨らんだ袖部分には白いレース。クラシカルなフレアーワンピースは今着てみても、少しも古さを感じさせない。
私が初めてこのお屋敷に来たときに祖母が形見の服として、母が使用していたクローゼットごとプレゼントしてくれたのだ。
「まぁ、レティのお母さんが着ていた服だったのね?」
「ええ、そうなの。母も私と同じ紫色の瞳だったから、紫色が好きだったのですって」
そして父のことが再び脳裏をよぎる。
紫色のネクタイピン……まさか……?
そのとき……
――コンコン
ノックの音と同時に扉の外でレオナルドの声が聞こえた。
『ふたりとも、出かける準備は出来たか?』
「あ、レオナルド様だわ」
ヴィオラが扉に飛びつくように開けると、そこにはレオナルドとイザークの姿があった。
ふたりとも、真っ白なシャツにボトムス姿だった。レオナルドはループタイを結んでいる。
「へ〜ヴィオラ。そのワンピース、良く似合っているよ。まさにリゾート地で着るドレスだ。華やかな君に合ってる」
「本当ですか? あ、ありがとうございます」
ヴィオラは何処かぎこちない様子でお礼を述べた。
「レティシアもそのワンピース、すごく似合っている。清楚な君にぴったりだよ」
「ありがとうございます、レオナルド様」
清楚……レオナルドの目には、私が清楚に見えるのだろうか? 一方のイザークは何故かぽかんと口を開けたままだった。
しかも気のせいか、私を見ている気がする。
「イザーク、ど、どうかしら?」
ヴィオラがイザークに声を掛けた。
「あ? あ、ああ。うん、良く似合ってる。この島の風景に良く合ってると思うぞ」
イザークはぎこちないながらも、ヴィオラの姿を褒めた。
「ほ……本当に?」
「ああ、嘘なんかつくものか」
ふたりの様子を見ていると、やっぱりヴィオラとイザークは交際しているのではないだろうかと思えてくる。
けれども、そんなこと……この場ではとてもではないけれど尋ねることが出来ない。
「よし、それじゃ行こうか?」
ヴィオラとイザークの会話が一段落つくと、レオナルドが私達に声を掛けてきた。
そして、レオナルドを先頭に皆でエントランスへ向かった。
**
「レティシア」
私のすぐ後ろを歩いてきたイザークが不意に声を掛けてきたので振り向いた。ヴィオラとレオナルドは私の前を歩いているので、気付いていない。
「どうしたの?」
「い、いや……そ、そのワンピース。レティシアの瞳に良く似合って……」
次の瞬間――
「貴様! 何しにここへやってきたのだ!」
エントランスの方から祖父の激昂する声が響き渡ってきた――
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