22 祖父の怒り

「え……? あの声は……?」


レオナルドが足を止めた。


「おじい様?」


私の言葉にレオナルドがうなずく。


「ああ、そうだ。一体どうしたと言うのだろう? 祖父があんなに激昂するなんて……」


「どうするんだ?」


イザークが私に声を掛けてきた。


「行くわ……だって、おじい様が心配だもの」


私の言葉に全員が頷き、レオナルドを先頭に急ぎ足でエントランスへ向かい……そこで驚くべき光景を目にした。



「貴様……! よくも私とカトレアの前に姿を現せたな!」


祖父は手にしていたステッキを振り上げて、誰かを怒鳴りつけているけれども私達に背を向ける格好で立っているので相手の姿は見えない。


「あなた! 落ち着いて下さい!」


祖母が怒りで震えている祖父を宥めている。

そして次の瞬間、私は耳を疑った。


「本当に申し訳ございません……お詫びの言葉すら見つかりませんが……こちらに娘のレティシアがいるのですよね!? お願いです! どうか娘に会わせて下さい!」


え……? あ、あの声は……


私は思わず走り出していた。


「レティ! どうしたの!」

「レティシア!」


ヴィオラとイザークが私の名を叫ぶも、私はエントランスに向かって駆け寄ると声を上げた。


「お父様!」


「「「え……?」」」


すると全員がこちらを振り向いた。


「レティシア……!」


扉を前に立っていたのは……やはり父だった。けれど、いつもの父とはまるで別人のように様相が変わっていた。

いつものようにきちんとしたスーツ姿ではあるものの、髪は乱れているし頬はこけ……顔色も青ざめていた。


「お、お父様……本当にお父様ですか……?」


私は目の前の父が本物か信じられずに声を震わせて尋ねた。


「良かった……本当に心配した……レティシア。やはり……グレンジャー家にお世話になっていたのだな?」


その姿は本当に私を心配しているように思えた。

父が私に近づこうと一歩前に出た時――


「レティシア! 何故ここへ来たのだ!?」


祖父が父の前に立ちふさがり、私の両肩に手を置いた。


「え……? そ、それはエントランスの方で騒ぎが聞こえたので……それで……」


そして背後を振り返ると、ヴィオラ、イザーク、そしてレオナルドが心配そうな顔で私を見つめていた。


「レティシア、お前と話が……」


父が私に声を掛けた時。


「フランク! レティシアに近付くな!」


祖父が私を抱きしめ、父を怒鳴りつけた。


「グレンジャー伯爵……」


父が傷ついた顔で私を見つめる。


「おじい様、お父様は……」


「レティシア、あんな男を父親などと思う必要は無い。娘を……そして大切な孫を蔑ろにする男など」


祖父は憎々しげな眼差しを父に向ける。


「おばあ様……」


私は助けを求めるために祖母に視線を送るも、祖母は悲しげな顔で首を振る。

ヴィオラもイザークもどうしたら良いか分からない様子で戸惑いの表情を浮かべていた。


「お待ち下さい、おじい様。まずはカルディナ伯爵の言い分を聞かれてみてはいかがですか?」


そこへ、レオナルドが進み出てきた――

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