12 近況報告
「お待たせいたしました、レオナルド様」
薄緑色のワンピースにエプロンドレス姿でリビングに出てくると、レオナルドがこちらを向いた。
「……へ〜。そうか、園芸作業をする時はこういう格好をするのか」
「はい、そうですが……何処かおかしいでしょうか?」
あまりにもじっとレオナルドが私を見つめるので尋ねてみた。
「いや、どこもおかしくない。すごく良く似合っている。今までレティシアのそういう姿を見たことが無かったから……うん、新鮮に感じるよ」
そして柔らかな笑みを浮かべる。
「あ、ありがとうございます」
その笑顔が何となく気恥ずかしさを感じさせてしまう。
「それじゃ、行こうか?」
レオナルドが席を立った。
「はい、私は戸締まりをしてくるので先に馬車でお待ちいただけますか?」
「ああ、分かった。待ってるよ」
レオナルドが外に出ていくと、私は早速家の戸締まりの点検を行った――
**
「レティシア、ここ最近何か変わったことは無かったか?」
馬車が走り出すとすぐにレオナルドが質問してきた。
「どうしたのですか? 突然に」
「いや……何だか以前より、いきいきしているように見えたからさ。……シオンのおかげかな?」
「え? レオナルド様……?」
まさかシオンさんの名前がそこで出てくるとは思わず、首を傾げた。すると……。
「あ、ごめん! 俺の気の所為だったか? 悪かった、変なことを尋ねて」
そしてレオナルドは馬車の外に視線を移す。そこで私は声をかけた。
「いいえ、多分気の所為ではないと思いますよ?」
「そうなのか?」
再び私に視線を移すレオナルド。
「はい、聞いて下さい。実はつい最近、町で新しくオープンした手芸店を見つけたんです。そして、そこの女性オーナーの方と知り合いました。それで話の流れで、商品に私の刺繍を入れてもらいたいと頼まれたのです」
「それはすごい話だな」
感心したかのようにレオナルドは目を見開く。
「そのオーナーの方にコースターに貝の刺繍をしてもらいたいと頼まれて、早速入れてみたんです。あの……もしよろしければ、見て頂けますか? 感想を聞かせていただきたいのです」
持っていたショルダーバッグから預かっていたコースターを取り出すと、レオナルドに差し出した。
レオナルドは1枚1枚丁寧に刺繍を見ている。預かったコースターはどれも違う貝の刺繍が施されている。
巻き貝や角貝、そして二枚貝……どれも一つ一つ、丁寧に時間をかけて刺繍した作品だった。
「……うん、どれも素晴らしい作品だ。レティシアは刺繍の才能があるんだな。これならきっとその女性オーナーも喜ぶに違いない」
「本当ですか? ありがとうございます」
レオナルドにそう言われると、何だか自信が湧いてくる。
「ああ。ひょっとすると、この先もレティシアに刺繍のデザインを頼んでくるかもしれないぞ?」
「だとしたら嬉しいのですけど……」
もし、その話が現実になれば私の理想の生活に一歩近づくことが出来るかもしれない。
「……でも、もしそうなったら……レティシアはずっとこの先も、ここで暮らしていくことに……なるんだよな?」
何故か歯切れ悪く尋ねてくるレオナルド。
「え? 勿論そうですよ? 私はグレンジャー家の養子になったのですから」
もとより、もう二度と私は『リーフ』に戻るつもりはない。
何故そんなことをレオナルドは尋ねてくるのだろう?
「ああ。そう言えばそうだったな。……悪かった。今の話は忘れてくれ」
レオナルドは少しだけ悲しげな笑みを浮かべる。
「は、はい……? 分かりました」
その後は大学に到着するまではレオナルドと他愛もない会話を交わした。
きっと今のレオナルドの悲しげな表情は気の所為に違いない。
私はそう、自分に言い聞かせた。
けれど……私は後ほどレオナルドの言葉の真意を知ることになる――
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