9 聞かれた話
翌朝――
朝食後、登校するカバンをリュックサックに交換すると早速背負ってみた。
「……大丈夫そうね。これなら松葉杖をついてひとりで歩けそう」
時計を見ると、そろそろセブランが迎えに来る時間が迫っていた。
「慣れない松葉杖だし……早めに出たほうがいいわね」
昨夜も寝る前に松葉杖で歩く練習をしてみたけれども、まだまだ不慣れで思うように扱えなかった。
「なるべく皆に迷惑掛けないようにしないと」
松葉杖を手にとって、扉に向かったとき――
――コンコン
不意に部屋の扉がノックされた。一体誰だろう?
「はい、どなたですか?」
ちょうど扉の近くにいたので声を掛けてみた。すると……
『僕だよ、セブランだよ』
「え? セブラン? どうぞ」
驚きながら返事をすると扉が開かれ、セブランが姿を現した。
「おはよう。レティ」
「まぁ、セブラン。どうしたの?」
今迄部屋までは迎えに来たことがない彼の姿に驚く。
「うん、レティは足を怪我しているから部屋まで迎えに来たんだよ。それに大事な話もあったし」
「大事な話?」
「うん、そうなんだ。実はレティが足を怪我してしまったことを両親に話したら、お見舞いがしたいと言ってきたんだよ」
「え? そ、そんなお見舞いなんて大げさだわ。怪我だって一週間もすれば治ると言われているのに」
まさかそんな大事になるとは思わなかった。
「うん。だけど特に母さんがレティのこと、とても気にしているんだよ。最近家にも遊びに来ていないだろう?」
「そ、それは……」
確かにフィオナとイメルダ夫人がこの屋敷に住むようになってからは一度も私はセブランの自宅にお邪魔していない。
以前は週末ごとに訪ねていたのに……
フィオナとセブランが親しくなり、私はどうしようもないくらいにセブランとの距離を感じていた。
それに私がセブランの自宅にお邪魔するとなれば、フィオナとイメルダ夫人までついてくるのではないかと思ったからだ。
……心が狭いと言われてしまうかもしれないけれど、私はできればセブランの両親には二人を会わせたくは無かったのだ。
「……で、いいよね?」
不意にセブランの言葉に我に返って顔を上げた。
「え? ご、ごめんなさい。今何て言ったのかしら?」
「あれ? 話聞いてなかったのかな?」
首を傾げるセブラン。
「え、ええ。少し考え事をしていたから……ごめんなさい。もう一度言ってもらえるかしら?」
「うん、いいよ。それで今夜レティのお見舞いに両親と訪ねてもいいかな?」
「え? 今夜、ここに!?」
あまりの突然の話に驚いた。
「だ、だけど……」
ここに来るということはセブランの両親がフィオナとイメルダ夫人に会うということになる。
「……そうだよね。あまり突然の話だから困るよね? ただ、両親がすごくレティのことを心配してたから……」
「い、いえ。そうではないわ。でも、わざわざ訪ねてきてくださるのは申し訳ない気が……」
「あら、私達は大歓迎よ」
その時、背後で声が聞こえた。
「「え?」」
私とセブランは驚いて振り向くと、いつの間に来ていたのかイメルダ夫人とフィオナが立っていた。
そんな……まさか、今の話、聞かれていた……?
動揺する私とは違い、イメルダ夫人とフィオナは笑みを浮かべている。
「セブラン様の両親が訪ねてくださるのよね? 大歓迎よ。皆が学校へ行っている間にお招きの準備をしておくわ」
「素敵! お母様、お願いね」
イメルダ夫人とフィオナは楽しそうに笑い合っている。
「あ……でも、レティは……」
少しだけ困った様子でセブランが口を開きかけた時、夫人は上から言葉を被せてきた。
「レティシア。折角お見舞いに来たいと先方が仰っているのだから、好意を無下にしてはいけないわよ?」
そして私を鋭い目で見る。
「は、はい……そうですね……」
返事をすると夫人は頷き、セブランに声を掛けた。
「では、セブラン様。今夜お待ちしておりますね?」
「はい、分かりました。帰宅後伝えておきますね」
「フフフ。セブラン様の両親に初めてお会いできるのね。楽しみだわ」
三人の会話を私は暗い気持ちで聞いていた――
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