5 『アネモネ』島へ来た理由
「レオナルド様……」
その言葉に驚いて、私はレオナルドを見た。ヴィオラもイザークも同様に驚いた様子でレオナルドに視線を向けている。
「レティシアは覚悟を決めて家を出たんだ。しかも家出の原因は父親だけじゃないみたいだし。セブランとフィオナという人物のせいでもあるのだろう?」
私をじっと見つめながらレオナルドが尋ねてくる。
「はい、……そうです」
隠していても仕方が無いので頷いた。
「それで? 一体セブランとフィオナというのはレティシアにとってどのような関係なんだ? 差し支えなければ教えてもらえないか?」
考えてみればレオナルドは、今まで一度も私が何故家を出てきたのか尋ねてきたことは無かった。
本当は理由が知りたかったはずなのに……そんな心遣いをありがたく感じていた。
祖父母だって本当は理由が知りたいはずだ。
だからこそ、正直に話そうと決めた。第一、グレンジャー家の人々には色々お世話になっているのだから。
「分かりました……お話します。セブランは私の婚約者で、フィオナは私の異母妹なのです。私が家を出たのは、ふたりが互いのことを好きあっていたからです。私さえいなくなればセブランとフィオナは結ばれると思ったからです」
「「……」」
私の話をヴィオラもイザークも神妙そうな顔つきで黙って聞いている。
「……何だって? それは本当の話なのか?」
途端にレオナルドの顔つきが変わる。
「そのことについて、レティシアの父親は何か言っていたのか?」
「いいえ、何も言っておりません。それに義母……フィオナの母もふたりが結ばれることを望んでいましたから」
すると、ヴィオラが会話に入ってきた。
「まさか、そんなこと直接言われたの?」
「ええ……セブランが私に婚約を申し入れてきたその日に『立場が逆だったらフィオナが選ばれたのに』って、通り過ぎるときに言われたの」
あのときは本当に悲しかった。セブランは私に気が無いのに、婚約の申し入れをバラの花束と共に申し入れてきたのは知っている。
何より、その直後に現れたフィオナにもセブランはバラの花束をプレゼントすることを私の目の前で宣言したのだから。
……あのことが、どれほど私の心を傷付けたか……きっとセブランは気付くことは無いだろう。
「全く……フィオナも、その母親もどうかしている……」
私の話に、イザークはギリギリと歯を食いしばるように呟いた。
「レティシア、話は分かった。それで実家を出て、自分の母親の故郷であるこの島にやってきたという訳なんだな?」
レオナルドが再び尋ねてきた。
「はい、そうです。あの屋敷には、もう私の居場所は無いと思ったからです」
「そうだったのか……それでこの島はどうだ? 気に入ったか?」
じっと私を見つめるレオナルド。
一瞬、神妙そうな顔でこちらを見つめているヴィオラとイザークに私は視線を移した。
何故イザークがヴィオラと一緒にここへやってきたのかは不明だけど、私を心配して捜しに来たということは十分理解している。
ふたりには悪いけれども……
「はい。私は……ここ、『アネモネ』島が気に入りました。できれば、ずっとここで暮らしていきたいと思っています」
私は自分の考えをはっきり伝えた――
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