7 レオナルドの話
「君を帰した後……罪悪感を覚えてね」
レオナルドはじっと私をみつめる。
「罪悪感ですか?」
「そうだ。貴族令嬢でありながら、この島でひとりで暮らしていこうとする決意。自転車に乗れるように頑張ったのも交通費を節約するためだろう? そんなに真面目な女性が祖父母達を蔑ろにする行動を取るのだろうかと疑問に思ったんだ」
「蔑ろ……? 一体どういう意味ですか?」
蔑ろにするも何も、お互いに一切交流すらしていなかったのに?
「やはり、君は何も知らなかったようだな?」
「え?」
「祖母は君が生まれてからずっとグレンジャー家に手紙を書いていたんだ。娘と孫に会わせて欲しいと」
「そうだったのですか? で、でも……私、一度だけしか手紙を受け取っていませんよ? しかも十年前に一度だけ……私の誕生日をお祝いしてくれた手紙でした。あ……まさか父が手紙を隠していたのでしょうか?」
「いや、君の父親は何もしていない。手紙を隠していた人物があの屋敷にいたんだ」
「え? だ、誰ですか……?」
「うちの執事だよ、君を出迎えたのは彼だ」
「あの人が……お祖母様の手紙を隠していたのですか?」
「そうだ。彼はもともと君の母親と父親の婚姻を反対していた。理由は……君なら分かるだろう?」
それはイメルダ夫人のことだ。
「はい、知っています」
頷く私。
「祖母はずっと君の母親の身を案じ……手紙のやり取りは続けていた。けれど、君を出産したことで心を病んでしまった話を手紙で知った時、執事にも話してしまったんだ。祖母の嘆き悲しむ姿を見た執事は、金輪際カルディナ家との関わりを絶とうと考えたらしい」
「え?」
「祖母は書いた手紙を全て執事に郵送してもらうように頼んでいた。あろうことか、彼は預かった手紙を全て隠し持っていたんだよ。ずっと……」
耳を疑うような内容だった。
「なぜ、執事さんはそんなことを?」
執事ともあるべき者が独断でそんなことをするなんて考えられなかった。
「俺も問い詰めたよ。そうしたら……彼は祖母に恋していたらしいんだ」
「!!」
「それだけじゃない、彼は君の父親から届いた手紙も隠し持っていた。祖父母に渡すこともなく……両家を断絶させようとしたんだ。悪いとは思ったが……調べるために一部読ませてもらった。君達のことが詳しく書かれていたよ。会わせてあげられないだろうかと懇願していた」
「! お、お父様が……そんな手紙を……?」
にわかには信じられなかった。父は……私と母に背を向けていたのでは無かったのだろうか?
「恐らく、君に一度だけ手紙が届いたのは偶然だったのかもしれない。祖母は一度だけ、町に出たときに自らポストに手紙を投函したことがあったらしいからな」
「それが、あの手紙……? 実は、私もあの後、手紙を何度も書いたのです。でも、お返事を頂けなかったので……私はよく思われていないのだろうと感じて、手紙を書くのをやめてしまいました。まさか、それも……?」
「ああ、執事が持っていた」
重々しく、レオナルドが頷いた。
その時――
「お待たせ致しました」
ボーイがワゴンに料理を乗せて運んでくると、私とレオナルドの前に料理の乗った皿を並べていく。
大皿には魚介類の見事な料理が乗っていた。
「ごゆっくりどうぞ」
ボーイが去ると、レオナルドが声を掛けてきた。
「ここのシーフード料理は絶品なんだ。話の続きは料理を食べた後にしよう」
そして、初めて私に笑顔を向けてきた――
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