8 レオナルドの提案

「……美味しい!」


レオナルドが頼んでくれたシーフード料理は絶品だった。新鮮な魚介類の料理など、あまり口にしたことが無かっただけに感動もひとしおだった。


「そうか? そんなに美味しいか?」


レオナルドが笑顔で尋ねてくる。


「はい。この島に来てからは全ての料理がとても美味しく感じます。多分環境が変化したのも影響していると思うのですけど」


「ここの島の環境がレティシアに合っているということか?」


「はい、そうなりますね」


「それなら、また一緒にこの店に来よう。君には色々償いをしたいからな」


「償いですか? レオナルド様がですか?」


「勿論そうだ」


頷くレオナルド。


「でも私はレオナルド様に償いをしてもらうようなことは何もありませんけど?」


「いや、執事の管理が行き届かなかったのは当主である俺の責任だ。だからレティシアに償いをするのは自分の務めだからな」


その時ふと思った。レオナルドはいつから養子になり……当主になったのだろう?


「あの、レオナルド様はいつからグレンジャー家の養子になったのですか?」


「今から15年前の5歳のときだった。俺の両親はこの島で造船会社を営んでいたんだ。両親はグレンジャー家と親しく付き合っていて、互いの家を行き来するほどに仲が良かった。けれど、ある嵐の晩……両親と従業員を乗せた船が転覆してしまったんだ」


「え……?」


その話に息を呑む。


「俺はこの日、たまたまグレンジャー家に預けられていたんだ。だけど、一晩で何もかも全て失ってしまった。そこで祖父母が俺を養子に引き取ってくれたんだ。グレンジャー家には跡取りになる者がいなかったからな。本当に祖父母には感謝しているよ。当主になったのは二年前さ」


と言うことはレオナルドは今二十歳……私より二歳年上なのだ。けれど、随分と大人びてみえる。


「二年前……丁度お母様が亡くなった年に当主になられたのですね?」


「そうだ……実は、君の母親が亡くなった報せだけは執事は祖父母に伝えたんだ。流石に隠すのはまずいとおもったのだろう。ふたりの嘆き悲しみようは凄かった。なぜ今まで連絡をしてこなかったのに、亡くなったときだけ連絡してくるのだと。それでもあの執事は平然としていた……」


レオナルドは悔しげに唇を噛み締めた。


「ふたりはすぐに手紙を書いて、カルディナ家に送るよう頼んだ。それなのに……あの執事は君の父親を装って嘘の手紙を書いて祖父母に手渡したんだよ。葬儀はもう済ませたので、来なくていいと」


「そ、そんな……!」


あまりの話に衝撃が走った。


「その手紙を読んだ祖父は激怒し……金輪際、一切カルディナ家とは関わらないと言い切ったんだ。……勿論、孫である君にも……」


レオナルドが申し訳なさげに言う。祖父に嫌われてしまったのはショックではあったけれども……


「でも、仕方ありませんよね……? おじい様からすれば憎いお父様の血を私は引いているのですから」


自分で言いながら、胸がズキリと痛む。


「だが、全て執事の仕業だと分かって誤解は解けたんだ。だから……レティシア」


「はい、何でしょうか?」


「今、住むところを探しているのだろう? レティシアさえよければ、グレンジャー家で一緒に暮らさないか? きっと祖母は喜ぶと思うんだ。俺に償いをさせてもらえないか?」


そしてレオナルドはじっと私の目を見つめてきた――





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