9 また明日
レオナルドの提案は私にとっては魅力的な話ではあったものの……
「折角のありがたいお話ではありますが……申し訳ありません。辞退させて下さい」
「え? 何だって?」
レオナルドは余程意外だったのか、目を見開いた。
「私は、もともと自立して生きていく為に家を出たのです。グレンジャー家でお世話になってしまえば自立の意味がありません」
「しかし……」
「それにレオナルド様の口ぶりからすると、おばあ様は私を受け入れてくださったとしても……おじい様は恐らく、私のことを受け入れてはくださらないでしょう?」
図星なのか、レオナルドは口を閉ざしている。
「私はこの島で自立した女性を目指したいのです。働いて、ひとりで暮らす。そんな自立した生活をこの島でおくりたいのです」
「レティシア……グレンジャー家の助けはいらないということか? だが、それではあまりにも君に申し訳が立たない。グレンジャー家の執事のせいで祖父母と断絶させてしまったというのに」
レオナルドは目を伏せた。
「でしたら、お願いがあります。実は私、海がよく見える素敵なアパートメントを見つけたのです。そのお部屋を借りたかったのですが、保証人が必要だと言われました。なのでグレンジャー家で保証人になって頂けませんか?」
「ああ、それくらいなら何ということは無い。家賃だって支払ってあげよう」
笑顔で答える彼の提案に私は首を振った。
「いいえ、そんな家賃まで払って頂くなんて申し訳ないです。それに、私の自立の意味が無くなってしまいます」
「だが……それでは……」
「保証人になっていただくだけでも、私にとってはとてもありがたいことなのです。それだけで本当に十分ですから」
「……分かった。そこまで言うなら、こちらも無理を通すのはやめよう。その代わり、時々君の様子を見にくることくらいは許してもらえるか?」
「許すも何もありません。とても心強いです。ありがとうございます」
私は笑みを浮かべて返事をした。
そしてその後も私達は食事しながら、会話を続けた――
****
「今夜は美味しいお食事をごちそうして頂き、ありがとうございます」
宿泊先のホテルまで送って貰い、馬車を降りるとレオナルドに御礼の言葉を述べた。
「お礼なんて言わないでくれ。そんなに丁寧な態度を取られると、次の誘いをしにくくなるから」
少しだけ照れた様子でレオナルドは私を見た。
「分かりました」
「ところでレティシア。明日は何か予定があるのか?」
「明日の予定ですか……いえ、まだ特に考えてはいませんでた」
強いて言えば、自転車で島の様子をみて回ることくらいだろうか?
「それなら、明日九時に迎えに来るからホテルのロビーで待っていてくれるか?」
「え?」
「不動産屋に行きたいのだろう? 俺が君の保証人になろう」
「ほ、本当ですか? ありがとうございます」
出来るだけ早くホテル生活を終わらせたかったので、とても嬉しい提案だった。
「ああ、それじゃまた明日。おやすみ、レティシア」
レオナルドは笑みを浮かべると馬車に乗り込み、走り去っていった。
私は彼の馬車が見えなくなるまで、見送ると空を見上げた。
「綺麗な星空……」
この島に来て、少しずつ良い方向へ動いている気がする。
「お父様……今頃、どうされているのかしら」
少しは私のことを心配してくれているだろうか?
……探してくれているのだろうか?
「もう、部屋に戻りましょう……」
そして私は部屋へと戻った――
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