6 訪ねてきた人物
「ふぅ……困ったわ……」
なすすべもなく私は港のベンチに座り、海をじっと見つめていた。打ち寄せる波の音を聞いていると、父の顔がふと浮かんできた。
「お父様……今頃、どうしているかしら? 私がお仕事手伝わなく困っていないかしら……」
だけど、私はもうあの屋敷には戻れない。
イメルダ夫人はまるで女主人のように振る舞うし、私がいる限りフィオナとセブランは結ばれることはないのだから。
気づけば空はオレンジ色に染まっていた。
「日が暮れる前に、ホテルに戻りましょう」
私は自転車に乗ると、ホテル目指してこぎ出した――
****
「すみません、二〇三号室にレティシア・カルディナですが戻ったのでお部屋の鍵を頂けますか?」
ホテルに戻り、フロントマンに声を掛けた。
「カルディナ様ですか? お帰りなさいませ。お客様がお待ちになっております」
フロントマンが鍵を出してくれた。
「え? お客様……?」
首を傾げた時――
「随分遅かったじゃないか」
突然背後から声をかけられた。
「キャッ!」
驚いて振り向くと、怪訝そうな顔つきのレオナルドが立っている。
「え……? レオナルド様……? どうしてここに……?」
「君からホテルの場所は聞いていたからな」
「い、いえ。私が言いたいのはそういう意味ではなく……」
しかしレオナルドは私の話に耳を貸すでも無く、眉を潜めた。
「それにしても君は今まで一体何処へ行っていたんだ? 若い娘があまりフラフラ遅くまでひとりで出歩くんじゃない。何かあったのではないかと心配しただろう?」
「私を……心配……?」
予想外の言葉に目を丸くする。
「ところで、もうすぐ夕食の時間だが、君はこれからどうするつもりだ?」
「え? ここのホテルで夕食を取ろうかと考えていましたが……」
「そうか。なら外で食事をしよう。美味しいシーフード料理を提供してくれるレストランがある。今から行こう」
「え? は、はい……」
有無を言わさない物言いに、気づけば頷いていた。
****
「ここだ」
連れてこられたのはホテルから馬車で五分程走った先にある海沿いのレストランだった。
やはりこの店も他の建物同様、白い壁に青い屋根の造りをしている。
入り口にはランタンが吊るされ、オレンジ色の炎がゆらめき、とても雰囲気の良い店だった。
「何をしている? 入るぞ」
「は、はい」
扉を開けたレオナルドに促され、慌てて返事をする。そして私達は一緒に店内へと足を踏み入れた。
「レオナルド様。ようこそお越しくださいました」
レオナルドはこの店の常連なのだろうか? 入り口に立っていたボーイがうやうやしく彼に挨拶してくる。
「ああ、今夜は連れと一緒だ」
するとボーイは私に視線を移し笑みを浮かべる。
「これは美しい女性ですね。それではお席にご案内い致します」
「ああ、頼む」
私は戸惑いながらもレオナルドの後に続いた。
「こちらのお席にどうぞ」
案内されたのは窓際の海がよく見える席だった。日は沈み、マジックアワーの空の色がとても美しかった。
「何にする?」
思わず景色に見とれていたが、声をかけられて我に返った。
レオナルドに視線を移すと、彼は私をじっと見つめてメニューを差し出している。
「あ、お料理ですね? はい、選ばせて頂きます」
メニューを広げ……少し迷っていると声を掛けられた。
「決められないのか?」
「はい……中々。申し訳ございません」
「だったら俺と同じメニューでいいか?」
「はい、同じでいいです」
そのとき、丁度お水を運んできたボーイがテーブルにやってきた。
「シーフドプレートセットをふたり分お願いします」
「はい、かしこまりました」
レオナルドの言葉に、ボーイは返事をすると去って行った。
改めて向かい合わせに座るレオナルドに、緊張する面持ちで尋ねた。
「あの……それで、どのようなご用向で、私のところにいらっしゃったのでしょうか……?」
「実は、あの後色々調べてみたんだ。すると祖父母と君の仲を引き裂いていた人物が発覚したんだ。その者のせいで互いに音信不通になってしまったようなのだ。だから君に謝罪したくて訪ねたんだよ」
「え……?」
耳を疑う言葉に戸惑う。
「レティシア、ろくに話を聞こうともせずに君を無下に追い返してしまった。本当に悪かった。どうか許して欲しい」
レオナルドは謝罪の言葉を述べてきた――
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