18 病床の中で
辻馬車を拾って帰宅する頃には、もう身体は限界に達していた。
鍵を開けて家に入ると、ふらつく足でリビングの棚に置かれた救急箱を取りに向かう。
「熱でもありそうだわ……」
救急箱には体温計が入っている。早速熱を測ってみることにした。
「……そろそろ良さそうね……え? 38度5分!?」
驚いたことに私は高熱を発症していた。そう言えば、港の帰り道から何となく寒気と頭痛を感じていた。
「横にならないと……」
何とか寝巻きに着替えて、倒れ込むようにベッドに横たわる。
「ふぅ……」
横になっていると、益々体調が悪化してきたように感じてきた。
本当は水分を補給したほうが良いのかもしれないけれど、とてもではないがそんな気力は出なかった。第一、もう起き上がれそうにない。
「休んでいれば……少しは良くなるわよね……」
そして私は目を閉じた――
****
夢を見た。
私がまだ小さな子供だった頃……母にどうしても会いたくて、母のいる部屋の扉を泣きながら何度も叩いていた。
けれど、心を病んでしまった母には私の気持ちなど通じるはずもない。結局、メイドによって私は部屋の前から連れ出されてしまった、あのときの夢を……。
ふと、額になにか冷たいものを乗せられた。
誰……?
けれど、瞼が重くて開けられない。
「お母……様……?」
そして再び、私は眠ってしまった――
****
「ん……」
次に目を開けた時。
いつの間にかカーテンはひかれ、部屋は明かりが灯されていた。
「え……? どういうこと……?」
状況を確認するためにベッドから起き上がろうとしたとき、額に何かが乗せられていることに気づいた。
外してみると、それは濡れタオルだった。
「濡れタオル……」
ベッドに横になったとき、カーテンはしていなかった。そして濡れタオルも用意していない。
「一体誰が……」
気だるい身体で無理やりベッドから起き上がり、室内履きを履こうとしたとき。
「あ!」
ドサッ!
バランスを崩して床に倒れてしまった。
「う……」
その時、突然部屋の扉が勢いよく開かれた。
「レティシア!!」
「え? お祖母様……?」
驚いたことに部屋に現れたのは祖母だった。
「しっかりして! レティシア!」
祖母は駆け寄ってくると私を抱き起こしてくれた。
「お祖母様……? な、何故ここに……?」
「レオナルドから話を聞いて、ここへ来たのよ。私達はこの家の合鍵を持っているから、それで家に入ってきたのよ」
「レオナルド様が……?」
祖母の力を借りてベッドに横たわると、私の額に手を当ててきた。
「まだ少し熱いわね……待っていて、今濡れタオルを持ってくるから」
「はい……ありがとうございます……」
聞きたいことは山ほどあったけれども、体調が悪くて尋ねる気にはなれなかった。
祖母が部屋から出ていく足音を聞きながら、ぼんやりと天井を見つめていると扉の外で声が聞こえてきた。
「それで、レティシアは大丈夫なのか?」
「さっきよりは少し熱が下がったみたいよ」
聞こえてきたのは祖父母の会話だった。
「……それにしても、何故レオナルドは見舞いに来なかったのだろうな……あんなにレティシアのことを心配していたのに」
「自分が行くと、レティシアが気を使ってしまうから行くわけにいかないと話していたわ」
「そうか……少し性急過ぎたか……」
「ええ。まだ話すべきではなかったのかもしれないわね」
祖父母が意味深な会話をしている。
「それじゃ、濡れタオルを用意してくるから」
そして遠くなっていく足音。
一体、今の会話はどういうことなのだろう……?
何か重要なことを話していたようだったけれども、今の私には何も考えることが出来なかった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます