19 病床の会話
ベッドに横たわったまま、ぼんやり天井を見上げていると祖母の声が聞こえてきた。
「レティ? 起きているかしら? 入るわよ」
返事をする前に扉は開かれ、祖母がトレーを持って入ってきた。
「あ……お祖母様……」
ベッドから起き上がると、祖母が慌てた様子で近づいてきた。
「レティ。無理に起きなくてもいいのよ?」
「平気です……さっきよりは身体が楽になりましたので」
「そう? なら……ミルク粥を作ったのだけど、食べられるかしら?」
祖母の手にしたトレーには皿の中で湯気の立つミルク粥が乗っている。それを見ていると、お腹が少し空いてきた。
「はい、食べられます」
「1人で食べられそう?」
「大丈夫です。ご心配、ありがとうございます」
弱々しく笑みを浮かべると、祖母がトレーごと手渡してきた。
「どうぞ、レティ」
「いただきます」
早速スプーンで掬ってミルク粥を口に運ぶ。……柔らかくて、ほんのり甘みがあって美味しい。
「お味はどうかしら?」
「はい、とても美味しいです。ありがとうございます、お祖母様」
「フフフ……良かったわ」
そしてそっと頭を撫でてくれる。私は滅多に風邪を引いたこともなければ、こんな風に看病してもらった記憶もない。祖母の心遣いに感謝しながら、食事を進め……完食した。
祖母は母の面影を良く写している。
もし、母の心が狂わされなければ……こんな風に私が病気の時に看病してくれたのだろうか……?
思わず、じっと祖母をみつめる。
「どうかしたの? レティ?」
「い、いいえ。何でもありません。お祖母様、ミルク粥本当に美味しかったです。……ところでお祖父様がいらしているのですか?」
すると、扉の外から祖父が顔を覗かせてきた。
「レティ、私を呼んだかい?」
「え? お祖父様? もしかして、ずっとそこにいたのですか?」
「あ、ああ……本当は部屋に入ろうとしたのだが……」
祖父は祖母をチラリと見る。
「いくら孫娘だからと言って、許可もなく寝巻き姿の状態で会わせるわけにはいきませんからね」
祖母がツンとした様子で言う。
「ほらな、この有様なのだよ」
肩をすくめる祖父。
「私なら大丈夫です、お祖父様。どうぞお入り下さい」
「そうか? なら入らせてもらおうか」
祖父はいそいそと部屋に入ってくると、ベッドの傍らに置かれた椅子に座った。
「ご心配、おかけいたしまして申し訳ございませんでした」
2人揃ったところで、改めて謝罪の言葉を延べた。
「何を言っておるのだ? そんなことで謝るんじゃない」
「ええ、そうよ。あなたは私達の大切な孫娘なのだから」
祖父母の優しい言葉が胸に染みる。でも、何故2人は私の状況を知っていたのだろう?
「ところで、何故私の具合が悪かったことをご存知だったのですか?」
「それはな、レオナルドから聞いたからだよ。レオナルドがレティの友達から具合が悪そうで早退したと教えてもらったらしい」
「それで私達に話してくれたのよ」
祖父母が交代で説明する。
「そうだったのですか……レオナルド様が……」
レオナルドはノエルから私の話を聞いたのだ。それで祖父母が看病に来てくれた。
だけど……。
「あの、それでレオナルド様はいらしているのですか?」
すると私の言葉に祖父母の顔が曇る。
「う〜ん……それが実は来ておらんのだよ」
「自分が来ればレティが気を使って休めないんじゃないかと話していたわ」
まさか、カサンドラさんの話が原因なのだろうか? それでレオナルドは私に気を使って……。
「そうだったのですね……お礼を言いたかったのに残念です」
「それでは帰宅したらレオナルドに伝えておこう。レティが会いたがっていたと」
私の言葉に笑顔を見せる祖父。
「レティ、今夜は私もこの家に泊まるわ。あなたのことが心配だから」
祖母が再び、頭を撫でてくれる。
「ありがとうございます」
やっぱり、家族っていいものだ……一時はレオナルドとの婚約の話を持ち出されて、戸惑ってしまったけれども。
私は小さな幸せを噛み締めていた。
けれど、私は何も知らなかった。
祖父母とレオナルドとの間で……ある話が出ていたことを――
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