4−21 断罪劇の終わり
その後、すぐにチャールズさんの言葉通りに二台の警察の馬車がカルディナ家へやってきた。
チャールズさんの案内で部屋に現れた警察官は全部で四人だった。
既に逃げる気力すら失っていたルーカス先生は、まるで糸の切れた操り人形になってしまったかの様子になっていた。そこで両脇からふたりの警察官に支えられるように先生は部屋から連れ出されていった。
それとは対象的だったのはイメルダ夫人。
「ちょっと! 何するのよ! 私は無関係、何も知らないのよ!」
屈強そうな男性警察官に取り押さえられながらも、必死に抵抗を続けている。
「往生際が悪い女だ! お前も重要参考人のひとりなのだから大人しく来るのだ! 抵抗すればするだけ、罪が重くなるぞ!」
男性警察官に威嚇され、とうとう夫人は観念したのか抵抗するのをやめた。
そして次の瞬間――
「レティシア! あんたさえいなければ……! 私達は幸せになれたのに!」
イメルダ夫人は突然私に向かってヒステリックに叫んできた。
「!」
その恐ろしい目つきに、肩が跳ね上がった。
え……? ど、どうして私が……?
すると隣に立っていたレオナルドが私の肩を掴んで、引き寄せると夫人を威圧するような目で睨みつける
「全く……言いがかりも甚だしいな」
「イメルダ! レティシアに向かって何てことを言うのだ!」
父が眉間に青筋を立てて怒鳴りつけた。
「……フン! 何よ! 今更良い父親ぶってもね……もう手遅れなのよ! 自分には何も非が無いと思ったら大間違いよ!」
その言葉に父の顔が青ざめる。
「いい加減にしろ! 行くぞ! ……君は娘だな? 一緒に警察に来てもらうぞ」
夫人を取り押さえている男性警察官は近くにいたフィオナに声をかけた。
「……はい」
流石のフィオナも警察に歯向かうのはまずいと思ったのか、おとなしく返事をする。
こうして夫人はフィオナとともに、そのまま警察官に応接室を連れ出されていった。
後に残されたのは私と父。レオナルドにシオンさん、そしてアンリ氏とひとりの警察官だった。
「どうも、お騒がせをいたしました。それで、こちらが証拠の毒花と……あの医者が記録したカルテですか?」
警察官はテーブルの上に置かれた、毒花とカルテに視線を移す。
「はい、そうです。その毒花は私がこの屋敷の花壇から見つけてきました」
シオンさんが返事をする。
「……そうですか。あなたは薬草に詳しいのですね。お手数ですが、一緒に署に来て頂けますか? 捜査にご協力お願いしたいのですが……」
「ええ、いいですよ。私でよければ喜んで協力させて頂きます」
「どうもありがとうございます。それでは皆さん、お騒がせ致しました。また詳しい状況が分かりましたら、後日説明に伺います」
「はい、よろしくお願い致します」
父が返事をすると警察官は軽く会釈し、次にシオンさんに視線を移した。
「それでは、一緒に参りましょう」
「はい」
警察官と一緒に部屋を出ようとするシオンさんにレオナルドが声を掛けた。
「シオン!」
「どうした? レオナルド」
「……頼んだぞ」
「分かってるって」
シオンさんは口元に笑みを浮かべると、応接室を出て行った。
「……すまなかった……レティシア……」
父が突然私に謝ってきた。
「お父様……」
「私が、もっとルクレチアの病状を強く疑い……対処していれば……彼女は死ぬことは無かったはずなのに……」
父は顔を抑えると、崩れるようにソファに座り込む。そこへアンリ氏が声を掛けてきた。
「フランク……俺のせいでもあるんだ。知らなかったとはいえ……お前を罠に陥れる片棒を担いでしまったのだから」
「だが、こんなことになったのは私の責任でもあるのだ……」
「ええ、そうですよ。カルディナ伯爵。あなたがきちんと対処していれば、そもそもこのようなことにはならなかったはずです。レティシアの母親は死なずに済んだのではないですか?」
レオナルドがきっぱりと言い切る。
「! 君……!」
父が青ざめながらレオナルドを見る。
「レオナルド様……」
レオナルドの言葉に驚いて彼を見た。まさか、父にそんな発言をするとは思いもしていなかった。
「そうだな……確かに君の言う通りだ……グレンジャー家の方々に申し訳が絶たない。それに、レティシアにも……」
そして父は深く項垂れた――
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