16 フランク・カルディナの過去 6
父が亡くなって半年――
私は学生ながら家督を継ぎ、父の代から仕えている執事のチャールズと秘書のジェフリーに支えられながら仕事と勉強を両立させていた。
やはり、当主ともなれば学力も重視されるので、大学をやめるわけにはいかなかったからだ。
慣れない生活は大変だった。けれどルクレチアが私のために大学をやめて仕事を手伝い、力になってくれた。
ルクレチアは勉強が好きだったはずなのに……それが私は非常に申し訳なくてたまらず、謝罪の言葉を述べる。
「すまない、ルクレチア。私の仕事に君まで巻き込んでしまって」
「私の幸せはあなたのお仕事を手伝うことですから」
するといつも彼女は笑って、こう答えるのだった――
――ある日のこと
「フランク様宛にお手紙が届いておりました」
いつものように書斎で仕事をしていると、執事のチャールズが私のもとに手紙を持ってきた。
「何の手紙なのだろう……?」
早速開封して目を通すと、それは高校の同窓会の報せだった。
「どのようなお手紙だったのですか?」
一緒に仕事をしていたルクレチアが尋ねてきた。
「高校の同窓会の報せだよ。ホテルを貸し切って1泊2日で行われるみたいだ。日程は丁度今から十日後になっているな。でも行かないよ」
「行かないのですか? 何故です?」
「それは……父が亡くなってまだ半年しか経過していないし、第一、身重の君を残しては行けないよ」
「もしかして、私に気を使っているのですか?」
「ああ」
ルクレチアの妊娠はほんの極僅かな者にしか知らせていない。彼女が安定期に入るまでは信頼できる者にだけ伝えるようにしていたのだ。
その理由は、勿論ゴードンにルクレチアの妊娠を知られるわけにはいかなかったからだ。
ゴードンのことだ。ルクレチアの妊娠を知れば、絶対にイメルダに伝わることになる。イメルダは私の婚約が決定してからは接触してくることが無かったが、葬儀のときにこちらをじっと見ていた視線が気になって仕方がなかった。
「私なら大丈夫ですよ。もうすぐ安定期に入りますから。今まで散々フランク様は仕事と勉強に頑張って来られました。それにお義父様が亡くなられてから半年間、喪に服されてきたではありませんか? たまには息抜きされてきてはいかがですか?」
「ルクレチア……」
するとチャールズが声を掛けてきた。
「ご主人様、ルクレチア様のことは我らにお任せ下さい。今までずっと休む間もなく働いてこられたのですから、一日、二日休まれるのも良いのではありませんか?」
「ええ、そうです。チャールズさんの言う通りですよ」
二人に言われると、たまには息抜きをするのも良い気がしてきた。
「分かった。それでは同窓会に参加することにしよう」
こうして、私は高校時代の同窓会に出席することになった。
それが後にとんでもない事件に巻き込まれることになるは思いもせずに……
****
十日後――
私は同窓会の会場となったホテルに来ていた。
会場にはかつての同級生達が集まり、数年ぶりの再会に喜びながら再会を祝っていた。
この私も、高校時代に交流を深めていた二人の友人たちと久々の再会で会話に花を咲かせていた。
「フランク、当主の仕事はどうだ? 少しは慣れたか?」
赤毛の髪の友人、モリスがワインを傾けながら尋ねてきた。
「まぁな、父が亡くなって半年……少しずつは慣れてきているよ。それに妻が手伝ってくれているからな」
「そうだった! お前、確か何処かの伯爵令嬢と結婚したんだったよな? しかも式は挙げずに入籍だけを」
黒髪のテオドールが興奮気味にグラスを煽る。
「そうだ。急ぎの式だったから、入籍だけになってしまったんだ。……ルクレチアには悪いことをしてしまった。けれど、落ち着いたら必ず結婚式は挙げるつもりだ」
もっともそれは彼女が子供を出産してからになりそうだが。
「それにしても意外だったよな〜高校時代、俺はお前がイメルダと結婚することになると思っていたのに」
モリスは遠くの方で、他の女性たちと会話をしているイメルダに視線を送る。
「イメルダ……」
忌々しげにイメルダに視線を送る。いくら自分に接近して来なくなったとは言え、彼女の姿を目にすると苛立ちが募ってくる。
「おい、やめておけよ。もう俺たちは知っているじゃないか。フランクがどれだけイメルダを嫌っているかくらい」
テオドールがモリスの肩を叩いたそのとき。
「ちょっといいか? フランク」
背後から誰かに突然声を掛けられた――
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