15 フランク・カルディナの過去 5
僕とルクレチアは互いに大学へ進学することが決まっていた。
ルクレチアは『アネモネ』島にある大学、僕は高等部からそのまま大学へ上がる。 そして卒業と同時に結婚しようと二人で固く誓いあった。
一方のイメルダの方だが、彼女も僕と同じ大学に進学したものの、まるで今までつきまとっていたのが嘘のように、接触してくるのをやめた。
もとより、イメルダと学部が違うのも功を成したのだろうと僕は思っている。
しかし、その反面頭を悩ませているのがイメルダの父であるゴードンの存在だった。
彼は屋敷でフットマンとして働いているので、どうしても顔を合わせてしまうことが悩みのタネだった。
いや、それどころか監視されているようにも感じる。だから僕は屋敷にいても心休まる日が無かった。
大学ではイメルダに遭遇しないことを祈り、屋敷ではゴードンの自分を監視するような視線に晒される。
いっそ、父に訴えて彼をクビにしてもらいたいけれどもイメルダに対して負い目がある僕にはその言葉をどうしても言い出すことが出来ずにいたのだった。
そして二年の歳月が流れた――
****
「父上、お加減はいかがですか?」
私は病床の父の元を訪ねた。
「ああ……フランクか……今日はいつもより気分は少しいいが……」
半年ほど前に重い病が見つかった父は今やすっかり痩せ細り、今や見る陰も無くしてベッドに横たわっていた。
「医者にはもう覚悟はしておいたほうがいいと言われている。だから……お前に家督を譲ろうかと思っている。ついでに前倒しになるかもしれないが、ルクレチア嬢との婚姻もしてもらえるか? 自分がまだ生きているうちにお前に妻を娶ってもらいたいのだ」
「分かりました、父上。ルクレチアと結婚します」
弱々しく笑う父の言葉に頷いた。
その日のうちに私はルクレチアに連絡し、彼女には申し訳なかったが入籍だけ済ますことに決めた。
いずれ、盛大な結婚式を挙げようと約束をして。
そして一週間後に僕とルクレチアは入籍し、その翌日に父は息を引き取った。
それはまるで眠るように穏やかな死だった――
****
ゴーン
ゴーン
ゴーン
教会に厳かな鐘が鳴り響き、父の棺が人々の手によって埋められていく。
「父上……」
その様子をじっと見つめていると、不意に手を握りしめられた。
「ルクレチア……」
妻になったばかりの彼女は私をじっと見つめている。
「大丈夫ですか? フランク様」
私は既に十五歳のときに、母を流行り病で亡くしていた。そして、今度は父も亡くなってしまった。
「ルクレチア……君だけはずっと……側にいてくれるよね?」
彼女を引き寄せると、胸に抱きしめながら懇願した。
「はい、勿論です。私はあなたの妻ですから」
「ありがとう、ルクレチア。愛している」
ますます彼女を強く抱きしめた時……ふと、強い視線を感じた。
視線をたどると、その先には喪服姿のイメルダとゴードンの姿があった。
「……っ!」
ここ最近、ほとんどイメルダと顔を合わすことは無かったのだが……まさかイメルダが父の葬儀に来ているとは思わなかった。
イメルダはまるで敵視するかのようにこちらを睨みつけている。
「イメルダ……」
思わず、名前が口から出てしまった。
「え? フランク様? どうされましたか?」
ルクレチアが怪訝そうに顔を上げた。
「いや、何でもない……」
そして再びルクレチアを抱きしめた。
何としてもイメルダからルクレチアを守ってやらなければ。
そう、自分の心に強く誓った。
それなのに……あんなことになるなんて……
私は結局ルクレチアを守るどころか、イメルダの罠にはまってしまうのだった――
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