37 いつもとは違う朝

 今朝の朝食の席はいつもとは様子が違っていた。


「今朝は随分静かな席ですね」


私は向かい側に座るレオナルドに声を掛けた。


「ああ、そうだな。祖父母は昨夜遅くまで起きていたから後で朝食を食べにくると聞かされていたけれども……」


レオナルドは空いている席をチラリと見た。


「まさか、今朝の食事が俺たちふたりだけになるとは思わなかった」


「そうですね……」


実はダイニング・ルームに入る直前、ヴィオラが「突然食欲が無くなった」と言って部屋に戻ってしまったのだ。

そしてイザークも今朝は食事を要らないと使用人に言伝をしていたらしい。


なので、結局今朝は私とレオナルドのふたりきりの食事の席となってしまったのだ。


「ヴィオラはどうしてしまったのかしら……イザークも昨夜から姿を見せないし」


ポツリと独り言のように呟く。


「まぁ、そういうこともあるだろう」


レオナルドは左程気にした様子も無く、食事を口に運んでいる。その落ち着いた様子が少しだけ気になった。


「レオナルド様は何かふたりのことで心当たりがあるのですか?」


「……」


すると、何故かレオナルドは少しの間無言で私を見つめる。


「あの……?」


「いや、心当たりは……特に無いな。でもいずれ分かるかもしれないし」


何とも微妙な言い方をするレオナルド。


「そうなのですか……?」


「それよりも、祖父母から昨夜話を聞いたのだが……レティシアはこの島の大学に進学を考えているそうじゃないか?」


「はい、そうです。もう御存知だったのですね」


「ああ、昨夜祖父母の部屋に呼ばれて話を聞いたんだ。それで、レティシア。早速だが今日にでも大学見学に行ってみないか? 何事も早い方がいいだろう? 丁度俺も大学に用があったんだ」


「本当ですか? 行ってみたいです」


大学の様子は見て見たいと思っていた。それにレオナルドが大学に用があるなら都合が良い。


「よし。なら十時になったら出掛けよう」


「はい」


うなずくと、私たちは食事を進めた――。



****



「え? 大学見学に行くの?」


食後、私はヴィオラの部屋を訪ねていた。


「ええ、そうなの。これから出かけるけど一緒に行かない?」


「う~ん……ごめんなさい。折角の誘いだけどやめておくわ。今日は荷造りとか他にも色々用事があるから。ほら、突然帰ることを決めたじゃない?」


「あ……そう言えばそうだったわよね。ごめんなさい、気づかなくて」


「私の方こそ、ごめんなさい。後でどんな大学だったか話を聞かせてね」


「ええ。それじゃまたね」


私はヴィオラの部屋を後すると、次にイザークの部屋を目指した。



――コンコン


「イザーク、いる?」


けれど、少し待ってもイザークは出て来ない。すると、丁度フットマンが通りかかった。


「お連れの男性なら、先程散歩に行くと言って出かけられましたよ」


「え? そうなのですか? ありがとうございます」


「いえ、では失礼致します」


フットマンは一礼すると去って行った。


「それなら仕方ないわね……」


私は部屋に戻ることにした――。」




****



十時――


私とレオナルドは馬車に向かい合わせに座っていた。


「これから向かう『アネモネ』大学は島の丁度中心部にあるんだ。学生数は三百名程で数は少ないけれど、質の高い教育を受けられると言う事で島外から留学している学生もいる程なんだ。俺は経済学部の学生だが、レティシアは何処の学部に進学する予定だったんだ?」


「私は文学部に進学する予定でした。本が好きなので」


「文学部か。その学部ならあるから、丁度いいな」


「そう言えば、レオナルド様の用事というのは何でしょうか?」


「そのことなんだが……俺の友人に用事があるのさ」


「友人……? 学生の方ですか?」


「ああ、そうだ。ちょっと彼に頼みたいことがあってな。レティシアにも紹介したいし」


そしてレオナルドは笑みを浮かべた――



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