2 一家団らん
午前11時半――
「ご苦労様でした。今日もありがとう、おかげで助かったよ」
シオンさんのお手伝いが終わると、いつものように3000リンが入れられた封筒を手渡してきた。
「……本当に申し訳ありません。今日は2時間しかお手伝いしていないのに……毎回こんなにお金を頂いてしまうなんて」
「そんなこと無いって。本当にレティシアには助けてもらっているんだよ。何しろ、こんなに広いハーブ菜園の世話を一人でするのは大変だったんだ。だから遠慮せずに受け取ってほしいな。そうでなければ、こちらも頼みにくいからさ」
そして笑顔になるシオンさん。
「ありがとうございます。……それでは頂きます」
封筒を受け取ると、下げていたショルダーバッグにしまった。
「それじゃ、気をつけて帰るんだよ。今日はグレンジャー家に寄るんだろう? レオナルドによろしく伝えておいてくれないか?」
「はい、伝えておきます。それでは失礼します」
傍らに停めておいた自転車に乗ると、シオンさんに見送られながら私はその場を後にした。
****
青空の下、美しい白い町並みを赤い自転車に乗って進む。ここ最近になって、アネモネ島でも自転車に乗る人が、ちらほら出てきているようだ。今も通り過ぎた店の前に自転車が停まっていたからだ。
「今に、もっとたくさん自転車に乗る人が増えてくるかもしれないわね……」
そして、この自転車をプレゼントしてくれた父のことを少しだけ思い出すのだった。
――30分後
グレンジャー家に到着した私を祖母が笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃい、レティシア。待っていたわよ」
「こんにちは、おばあ様」
二人で抱き合うと、尋ねた。
「おじい様はどうされたのですか?」
「今、レオナルドと二人で書斎で話をしているわ。ちょっと大事な話があってね」
「大事な話ですか?」
一体どのような話だろう。
「それじゃ、ダイニングルームに行きましょう。もう昼食の準備が出来ているのよ」
「はい」
そして祖母に連れられて、ダイニングルームへ向かった。
ダイニングルームに入ると、既に給仕のメイドとフットマンが待機していた。
まだ祖父とレオナルドの姿は無い。
「あら、まだ二人は来ていないのね。……二人を呼んできてちょうだい」
祖母は席に着くと、給仕のフットマンに告げた。
「かしこまりました」
フットマンは足早にダイニングルームを出ると、再び祖母が話しかけてきた。
「今日はシオン様のお手伝いをしてきたのでしょう?」
「はい、そうです。今日はラベンダーの手入れをしてきました」
「あら、だからね? レティシアの身体から良い香りがすると思ったらラベンダーだったのね」
「え? 私の身体にラベンダーの香りが?」
自分では少しも気づかなかった。
「今、週にどれくらいシオン様のお手伝いをしているのかしら?」
「週に2〜3回程でしょうか?」
「そうなの。結構頻繁に行ってるのね。……ところで、レティシア。シオン様とは……」
祖母がそこまで言いかけたとき――
「待たせてすまなかったな」
「いらっしゃい、レティシア」
祖父とレオナルドがダイニングルームに現れた。
「お邪魔しています。おじい様、レオナルド様」
立ち上がって、挨拶する。
「お邪魔しているなんて、そんな他人行儀なことを言うな。お前はもう私達の娘なのだから」
「そうだ、おじい様の言うとおりだ」
祖父の言葉にレオナルドが頷く。
「それじゃ、家族が揃ったところで食事にしましょうか?」
祖母の言葉に、給仕の手により次々とテーブルの前に料理が並べられ……楽しい食事会が始まった――
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