16-a ヴィオラの恋心 2

「あ……レオナルド様」


まさか今の呟きを聞かれてしまっただろうか? 私の身体に緊張が走る。


「こんなところで立ち止まってどうしたんだ? もしかして迷子になってしまったのか?」


心配そうな顔で声を掛けてくるレオナルド様。


「い、いえ。大丈夫です。迷子にはなっていませんから」


「それならいいが……ところで、レティシアと一緒じゃ無かったのか?」


「レティとはさっきまで二人で芝生の上で星空を眺めていました。今は……イザークと一緒にいます。きっと一緒に星を眺めているのかも……」


「え? レティシアとイザークが一緒に?」


怪訝そうなレオナルド様の顔を見て、私はハッとした。


つい、尋ねられたのでうっかり話してしまったけれども……もしかして言わないほうがよかったのかもしれない。


「あ、で、でも……もう二人共、部屋に戻ったかもしれません。アハハハ……」


笑ってごまかす。


「それはないな。先程、レティシアに用事があって部屋を訪ねたんだ。ノックをしても応答が無かった」


そう言えば、レオナルド様とレティの関係は……本当にただの親戚関係ないのだろうか?レティだけがそう思いこんでいるだけで、レオナルド様はひょっとして……?


「あの……何故、レティシアの部屋を訪ねたのですか?」


もうすぐ22時になるというのに。


「ああ、祖父母がレティシアに話があるそうだったから、俺が代わりに呼びに行ったんだ」


「え? そうだったのですか?」


レティとイザークの邪魔をしたくは無かったけれども、おじい様とおばあ様が呼んでいるならレティに教えてあげないと。


「そうか……レティシアは今、イザークと一緒に中庭にいるのか……何故だろう? だが、そこにいるのなら呼んでこよう。教えてくれてありがとう」


そしてレオナルド様は中庭へ行くために背を向けた。


「あ、あの!」


「何だい?」


私の呼びかけに足を止めるレオナルド様。


「あの……レオナルド様にとって、レティは……どんな存在……ですか?」


「どんな存在?」


首を傾げるレオナルド様を見て、私は自分がとんでもないことを口にしていることに気づいた。


「あ、あの! い、今の話は……その……」


「う〜ん。レティシアは祖父母の大切な孫であって……俺にとっては妹みたいなものかな?」


腕組みしながら考え込むように答えるレオナルド様。


「え? 妹……ですか?」


「うん、そうだな」


「そうだったのですか……」


なら、イザークにもまだ希望はあるかも……

そう思いながらも、再び私の胸はチクリと痛む。


「そういう君はどうなんだ?」


「え? どうって……?」


「君は、ひょっとしてイザークが好きなんじゃないか?」


「え! そ、それは……!」


突然の質問に驚くと同時に顔が赤くなる。けれど、それだけでレオナルド様は気付いてしまったようだ。


「そうか。それで……」


レオナルド様は小さく呟くと、私に語りかけてきた。


「相手のためを思って身を引くこともいいかもしれないが……後悔しない為に、自分の気持ちに素直になったほうがいいんじゃないかな? 俺だったらそうするよ」


「!」


その言葉に、肩が跳ねてしまう。


「……ごめん。余計なお世話だったかもしれない。それじゃ俺はレティシアを呼びに行ってくるよ。祖父母に頼まれているから」


レオナルド様はそれだけ言うと、再び背を向けて行ってしまった。



「自分の気持ちに素直に……?」


気づけば、レオナルド様に言われた台詞を口にしていた――

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