7 レオナルドの話

「レオナルド様、書類の整理が終わりました」


レオナルドの書斎机に、整理の終わった書類の束を置いた。


「ああ、ありがとう。……うん。綺麗にまとめられている。さすがはレティシアだ。ありがとう」


私に笑顔を向けてくるレオナルド。


「いいえ、お役に立てて光栄です。それに、事務仕事は好きですから。カルディナ家にいたときも、よく父の手伝いを……あ、すみません」


「何故謝るんだ?」


「それは……また、父の話をしてしまったからです」


どうしても無意識に父の話をしてしまう。完全に父のことは吹っ切ったつもりだったのに……心のどこかで、まだ私は父のことを……。


「別にそれくらいのことで、謝る必要はないだろう? 確かに祖父母の前ではカルディナ伯爵のことは口にしないほうがいいかもしれないが、俺の前では遠慮することはないぞ? 何と言っても……親なんだから当然だ」


「親……」


その時、ふと思った。

レオナルドはグレンジャー家の養子に入った。本当の両親のことを恋しく思うことは無いのだろうか……?


「どうかしたのか?」


「いいえ、何でもありません」


「ところで、どうだ? アルバイト先は見つかったか?」


レオナルドが話題を変えてきた。


「いえ、それがまだ……シオンさんにも尋ねられたのですが、コレと思えるアルバイト先が中々見つからなくて」


むしろ、今の私はシオンさんと一緒にハーブ菜園の仕事を手伝うのが楽しく感じている。

このまま、ずっと彼のお手伝いができれば……。けれど、そうなるとまだ学生のシオンさんにアルバイト代を支払わせてしまうことになる。

それも何だか心苦しかった。


「レティシア。別に無理にアルバイトを探さなくてもいいんだぞ?」


「え?」


「俺としては、このままグレンジャー家の仕事の……俺の補佐をしてくれると助かるし……」


「レオナルド様……」


もしかして、仕事量が多くて大変なのだろうか? 考えてみればレオナルドだって学生なのだ。勉強と仕事の両立は負担なのかもしれない。


「あ、別に無理にとは言わない。レティシアに仕事を押し付けるつもりは全く無いんだ。自分のやりたいアルバイトをゆっくり探すといい」


「ありがとうございます」


レオナルドの心遣いが嬉しく、笑顔でお礼を述べる。

そんな私をじっと見つめるレオナルドが、不意に思いがけないことを尋ねてきた。


「……レティシア。シオンとは……うまくいってるか?」


「え? うまく……?」


「つまり、その……シオンのことをどう思う?」


祖父母と同じようなことを問われて、思わず首を傾げてしまう。するとレオナルドが慌てた様子を見せた。


「いや、別に対して深い意味は無いんだが……」


「はい、とても素敵な方だと思います。さすがはレオナルド様の親友だと思いました」


思ったことを素直に述べる。


「……ああ、そうなんだ。シオンは俺の一番の親友だ。だから、レティシアがシオンと仲が良いと……俺も嬉しいよ」


レオナルドの言葉を聞いて、ふとヴィオラのことを思い出した。


「そうですね。親友って良いものですね」


「ああ、もうすぐ大学も始まる。そこで、レティシアにも素晴らしい親友が出来るといいな」


「大学……」


そうだ、もうすぐ私は『アネモネ』大学に入学する。


本当なら『パレス』大学に通うはずだったのに……ヴィオラとも約束をしていたのに、私はその約束を破ってしまった。


「よし、そろそろ夕食が始まる。ダイニングルームに行こうか?」


「はい、レオナルド様」


返事をしながら思った。


今夜、ヴィオラに手紙を書こう――と。

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