6 今の気持ち
「レティシア、今ため息をついた様だが……ひょっとしてセブランのことが気になるのか?」
じっと私を見つめるレオナルド。
気持ちを隠していても仕方がない。私は正直に告げることにした。
「そうですね。……セブランはマグワイア家の令息として、両親から大切に育てられてきました。それが、殆ど何も持たない状態のまま家を追い出されて絶縁までされてしまったのですから。彼は、この先1人で生きていけるのか気になります」
「そんなに心配しているのか? あの男は今まで散々レティシアを蔑ろにしてきたんだぞ? こんな言い方をしては何だが……自業自得だとは思わないか?」
レオナルドは眉をひそめた。勿論、言いたいことは理解できる。
けれど、私はどうしても割り切ることが出来なかった。
「ですがセブランがこのような結果になってしまった事には責任を感じています。私はただ……邪魔者にならない為に、静かに消え去るつもりだったんです。それが、こんな大ごとになってしまうとは思ってもみませんでした」
私の話をレオナルドはじっと聞いている。その姿を見ていると、自分の気持ちを吐露したくなってきた。
「あの場所にいてもいなくても、自分はどうでも良い存在だと思っていたのです。いえ、むしろ私がいなければ全て丸く収まるのだろうと考えていました。だからあの家を出たはずだったのに。それがかえって周囲を巻き込み、その人たちの人生を悪い方に大きく変えてしまうことになってしまいました。そのことが申し訳なくて……」
きっと、イメルダ夫人もフィオナも……そしてセブランも私を恨んでいるに違いない。
思わず俯くと、レオナルドが近くに来る気配を感じ……顔を上げるとすぐ傍で私をじっと見降ろしている彼がいた。
「いいか? レティシア。君は少しも悪くはない。むしろ、彼らのせいで自分の人生を歪められてしまっていたんだ」
「レオナルド様……」
レオナルドは私の前に、跪くと手を取った。
「レティシアには何も責任なんか無い。被害者だったのは君の方だ。彼らには罪に応じた罰が下っただけなんだから。自分を責める必要はどこにも無いからな? むしろ、俺は感謝しているくらいだ」
「感謝……? 私にですか?」
「ああ、祖父母はずっとレティシアに会いたがっていたが……グレンジャー家とカルディナ家の間では誤解が生じていた。だけど、レティシアが思い切って行動してくれたから祖父母も……そして、俺もこうやって君に会えることが出来たんだからな」
レオナルドの手に力が込められる。
「そう言って頂けると嬉しいです」
その言葉が嬉しくて、笑みを浮かべて礼を述べた。すると、レオナルドはすぐにその手を離して立ち上がった。
「そ、そろそろ……仕事を始めようか?」
「はい、そうですね」
「それではいつものようにこの書類の仕分けからやって貰えるか?」
机の上に乗った書類の束を指さすレオナルド。
「分かりました」
「……」
返事をするも、何故か私をじっと見つめたままのレオナルド。
「あの、どうかしましたか?」
「い、いや……ところで、レティシアは祖父母から何か聞かされているか?」
「え? 何かとは……一体何のことでしょう?」
心当たりが何も無く、首を傾げる。
「そうか、ならいいんだ。……だが、もし……」
そこで言葉を切るレオナルド。
その様子がおかしく思えたので私は黙って話の続きを待った。
「もし祖父母に何か言われても、レティシアは自分の思うように行動すればいいからな? 誰にも何も遠慮せずに……この先もずっとだ」
「レオナルド様……?」
一体、何を言いたいのだろうか?
「すまない、変なことを言ってしまったな。よし、それじゃ仕事をしよう」
次の瞬間には、いつものレオナルドの姿に戻っていた。
「はい、分かりました」
少しの疑問を持ちつつ、私は仕事を始めた――
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